分子科学研究所は、今年、創立30周年を迎えました。多くの優れた先輩の先生方の先見的見識と努力のお陰で、また、国、分子科学コミュニティの皆様及びその他多くの方々のご支援のお陰で、分子科学研究所はこの30年の間に大きな発展を遂げる事が出来ました。国内のみならず、国際的にも分子科学の卓越した研究拠点として知れ渡り、「分子研に招待されれば箔が付く」と言われるまでになっています。更に近年には、基礎生物学研究所及び生理学研究所との緊密な協力により統合バイオサイエンスセンターを設立すると共に、分子研独自にも、分子物質開発研究センターを改組拡充した分子スケールナノサイエンスセンターの立ち上げ、世界最高性能を誇るNMR装置の導入、UVSORの高度化と新しいレーザー分子科学の推進、NAREGIをはじめとする大規模シミュレーション計画の振興等々、多くの拡充が成し遂げられました。また、昨年4月からは、新たに発足した自然科学研究機構の一員として再出発をしております。
 分子科学研究所は、これらの拡充と今迄の研究成果を踏まえて、なお一層の発展を期する必要があります。20世紀初頭の量子論の誕生による革新的科学の発展から100年を迎えましたが、知識を基盤とする世紀である21世紀には、全包括的世界観に基づく「新しい科学」の誕生が期待されています。物質から生命に至る幅広い科学の基礎としての分子科学は、この新しい科学の誕生の礎とならねばなりません。幅広い視野を持ち複眼的視点から、新しい分子科学の発展をもたらす為に更なる努力と研鑽を積まねばなりません。また、今世紀を「アジアの世紀」とすべきであると言う観点から、西欧追随ではない「真に独創的」な成果を生み出すためにも、「我々独自の哲学」を持つべきであります。創立30周年を迎えるこの機会に、新たなる気持ちで新たなる挑戦を始めるのだと言う強い気概を持ちたいと思います。法人化など世の中の客観情勢は、「基礎学術」にとって必ずしも明るいものではありませんが、厳しい状況の中においてこそ、気持ちを一段と引き締めて、基礎学術としての分子科学の新たなる発展・飛躍の為に邁進したいと思います。今までにもまして、各方面の方々の暖かいご支援を心からお願い申し上げる次第です。

自然科学研究機構
分子科学研究所
所長 中村宏樹

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