分子科学研究所

分子科学研究所

サイト内検索

HOME arrowお知らせ arrow 「アト秒コヒーレント制御法の開発と応用」大森賢治教授

お知らせ詳細

受賞

「アト秒コヒーレント制御法の開発と応用」大森賢治教授

電子構造研究系の大森賢治教授が、「アト秒コヒーレント制御法の開発と応用」に関する業績で、平成18年度の日本学士院学術奨励賞ならびに日本学術振興会賞を受賞されました。表彰式は平成19年3月2日に、日本学士院において開催されます。日本学術振興会賞は、我が国の学術研究の水準を世界のトップレベルにおいて発展させるために、創造性に富み優れた研究能力を有する若手研究者を早い段階から顕彰し、その研究意欲を高め、研究の発展を支援していく趣旨で、平成16年度に日本学術振興会によって創設されました。今年度は人文・社会科学及び自然科学の全分野から25名の研究者が表彰されます。さらに日本学術振興会賞受賞者の中から特に優れた者5名以内に、日本学士院より日本学士院学術奨励賞が授与されます。大森教授はこの度、物理や化学の分野から初めて日本学士院学術奨励賞を受賞する運びとなりました。分子科学の分野にとって、たいへん喜ばしいことであり、心よりお祝い申し上げます。

 

近年、量子論の理解を深め新たな応用分野を切り拓く事を目標に、位相の揃った光を用いて物質の波動関数の振幅や位相を操作しようとする試みが様々な分野で行なわれるようになりました。このような量子制御は「コヒーレント制御」と呼ばれ、原子からナノ構造に至る様々な階層において量子コンピューティングや結合選択的な化学反応制御などの先端的な量子テクノロジーに結びつくものとして注目されています。大森教授は、アト秒(10-18秒)精度のコヒーレント分子制御法の開発と応用を目指した一連の研究で世界をリードする成果を挙げて来ました。

 

同教授はまず、原子衝突の途上における光吸収を観測する独自のレーザーポンプ・プローブ法を用いた斬新な分子分光法を開発し、フェムト秒スケールで進行する化学反応素過程の途中に位置する「遷移領域」を観測することに成功しました。これら一連の超高速分子ダイナミクスに関するレーザー分光学的研究は、後のアト秒コヒーレント分子制御法の確立のための重要な基礎となっています。

 

大森教授は近年、波としての光の位相を分子の波動関数に転写するという方法を用いて、かつてない高精度のコヒーレント制御法(アト秒コヒーレント制御法)を開発する事に成功しました。同教授が開発したアト秒位相変調器(APM)は光の位相を精密に操作する装置です。真空中でフェムト秒レーザーパルスを二つに分けて、一方をアルゴンや水素などの気体が入ったチューブに通しスピードを微妙に変化させることで、アト秒レベルの安定性と分解能で二つのパルスの位相差を調節することができます。同教授は、それらのパルスを分子に照射する事によって発生させた二つの波束の量子干渉を自在に制御する事に成功しました。さらには、このような波束の精密干渉を用いて、分子の中に波動関数の振幅位相情報を書き込み、これを一定時間保存した後に読み出す事にも成功しました。

 

また、最近ではこのような量子干渉をリアルタイムで観測することにも成功しています。この実験で大森教授らは、APMによって高度に制御された量子干渉の様子を別のフェムト秒レーザーパルスを使って追跡しました。すると、分子の中に1個目の波束が出現し、分子内を行ったり来たりした後に、2個目の波束に衝突して複雑な干渉が始まる様子がリアルタイムに観測されました。さらには、このような二つの波束が衝突する際に一瞬だけ現れる量子力学的なさざ波を、ピコメートルレベルの空間分解能とフェムト秒レベルの時間分解能で可視化することに成功しました。有名なヤングの実験を始めとして、これまで物質の波動性の研究では、物質波が重なった後にできた定常的な干渉縞が観察されてきました。大森教授らは、ごく最近の一連の研究によって、従来の干渉縞を観察する手法を超えた、「動的量子干渉法」とも呼ぶべき量子干渉実験の新たな局面を切り開いたのです。

 

大森教授の一連の研究成果は、分子科学の分野で世界のトップレベルにあるばかりでなく、物理化学、量子光学、物性科学あるいは情報科学といった様々な分野で学際的な注目を集めています。また多数の新聞各紙等で大きく取り上げられ、社会的にも反響を呼びました。昨年のアメリカ物理学会年会においてシンポジウムオーガナイザーとして迎えられるなど、同教授への国際的な注目度は非常に高いものがあります。

 

今後、大森教授の開発したアト秒精度のコヒーレント制御法が、従来の分子科学の枠組みを越え、物性科学や情報科学などより多くの分野を融合した学際的な研究領域を形成し、化学反応制御や量子情報処理などの量子テクノロジーの開発や量子論の基礎的な検証の新たな扉を開いていくものと大いに期待されます。

(西信之 記)

関連リンク

最近の研究成果「量子のさざ波を世界最高精度で観測・制御」

大森グループホームページ

独立行政法人 日本学術振興会

新聞報道

2007年2月6日付 中日新聞 朝刊

2007年2月14日付 毎日新聞 東京朝刊

2007年3月15日付 秋田さきがけ東奥日報 神戸新聞 愛媛新聞 熊本日日新聞

2007年3月16日付 徳島新聞

2007年3月18日付 新潟新聞高知新聞

2007年3月19日付 東京新聞

2007年3月20日付 岩手日報 山形新聞

2007年3月22日付 茨城新聞