分子科学研究所

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2014/10/27

アウトリーチ

村木則文先生の出前授業記(2014年10月20日実施)

 10月20日(月)に河合中学校で全校生徒75人を対象に出前授業を行いました。「結晶学入門 ~分子のかたち、私たちのかたち~」というタイトルで、国際科学技術財団の「やさしい科学技術セミナー」との共催で行いました。

全学年・全校生徒が対象なので、まずは結晶に興味をもってもらえればと思い、身近な結晶の話から始めて、鉱物結晶にも触ってもらいました。次に、結晶は分子が規則正しくならんだ物質であることを話して、分子の話に入りました。二酸化炭素や水の分子の大きさを紹介してから、ヒト (1m) から1/1000ずつ具体例を出していって1 nmという長さを実感してもらいました。結晶の辺1 mmには、1nmの分子が規則正しく100万個並んでいることを示して、数百万もの分子が規則正しく並んでいることが結晶の美しさをもたらしていると話しました。

限られた時間の中、体育館でできる実験として、酢酸ナトリウムを使った再結晶化の実験を行いました。1年生の生徒がちょうど理科の授業で再結晶を習っているとのことで、関心は高かったようです。あらかじめ酢酸ナトリウムの過飽和水溶液を20本用意しました。過飽和溶液に結晶核となる酢酸ナトリウム顆粒を加えると、結晶が急成長する様子が見られます。ひとかけらの結晶核から、結晶が瓶全体に成長する様子を見て、歓声があがっていました。

141020.jpg後半では、X線結晶構造解析の話をしました。中学生には難しいとは思ったのですが、可視光では分子が観察できないことを説明しました。結晶にエックス線を照射することで、回折点が生じることと、その回折点が結晶中の分子の並び方によって決まることが発見されたという話をしました。これらはラウエによる回折現象の発見とブラッグの法則として知られていますが、今年は彼らの発見から100年目にあたり、世界結晶年に制定されています。

この100年で結晶から塩や鉱物の構造だけでなく、私たちの体を構成しているさまざまな高分子の構造もわかるようになったことを説明しました。ヘモグロビンの結晶構造を例に挙げ、生体分子の結晶構造解析が生命現象の理解や創薬、生体材料の開発基盤となりうることを示しました。構造解析の原理はわからなくても、結晶を使うことで自分の体を構成している分子のかたちがわかるということは理解してもらえたと思います。最後に、多くの研究が共同研究によってなされており、たくさんの研究者・技術者によって支えられていることを話して、人との交流の大切さを伝えました。

実験が思った以上に滞りなく進んだので、時間内に終えることができました。最後に質問を受け付けたのですが、このときはステージから下りた方が良かったように思います。離れていると質問しづらいものです。終わってから何人かの生徒から質問を受けました。
今回の出前授業を通して、学校の授業とは違った視点で科学・理科を見ることができたなら幸いです。生徒たちには、結晶化実験のときの歓声と目の輝きを大切にしてもらいたいと思います。141020_1.jpg

(村木 則文 記)