分子科学研究所

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2015/07/30

アウトリーチ

塚本寿夫先生の出前授業記(2015年7月16日実施)

7月16日に岡崎市立岩津中学校の中学1年生(1クラス33人)を対象に、"生き物の「分子」と「進化」"というテーマで出前授業を行いました。

台風11号が接近しており、授業が延期される可能性もありましたが、無事予定通りの日程で授業を行うことができました。岩津中学校に伺ってまず、校長先生と、事前の打ち合わせなどをしていただいた矢部教諭とお話しさせて頂いて、岩津中の歴史や、生徒さんの気質などを教えていただきました。その後、授業を行う理科室に移動して、生徒さんたちと初めてお会いしました。中学1年生は、この4月に入学したばかりで、まだ3ヶ月半しか中学校のカリキュラムを終えていないため、私の研究対象であるタンパク質を説明するまえに、分子とはなにか?生き物の活動はどのように支えられているのか?といったところから話をはじめました。

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まず分子は、水素や炭素・酸素などの原子からなり、その組み合わせとかたちが異なることで、まったく役割が異なる分子が生まれることを、水とペットボトルを例にしてお話しました。生徒さんによっては、「原子」「分子」という言葉(概念)に対するイメージがなく、最初のところから話を飲み込むのが大変そうでした。もっと具体的なイメージのわくお話をするべきだったと思っております。そして、生き物も分子からなり、多くの場合、タンパク質という分子が、生き物の機能を担う「部品」としてはたらくことを説明しました。また、私たち人間の場合、おおよそ2万5千種類のタンパク質があり、これらがうまく組み合わさってはたらくことで、動いたり、食べたり、感じたりすることができることを説明しました。身近な例としては、ペットとしてよく飼われているネコは、甘み(砂糖)を感じるタンパク質を持っていないため、他の多くの哺乳類とは異なり、甘いものに惹かれることがないことを挙げました。授業の後に書いていただいたアンケートによりますと、生徒さんにとっては、自分たちの中にたくさんの種類のタンパク質があることや、自分は甘いものを食べたくなるのに(個人差はありますが)、身近なネコはそうではないといった違いがあることが、驚きだったようです。

上に述べたように、生き物がある機能を持つ、ということは、それを可能にする部品、タンパク質が存在するということになります。すなわち、私たちがものを見ることができるのは、外界の光情報をキャッチすることができるタンパク質を持つから、ということを説明し、動物の場合は多くの場合、オプシンと呼ばれるタンパク質を使って、外界の光情報をキャッチしていることをお話しました。タンパク質は普通、(可視)光をキャッチできませんが、栄養素の一つであるビタミンAが少し変化したレチナールという、タンパク質ではない分子が、オプシンにくっつくことで光をキャッチできるようになっていること、ビタミンAが不足すると(現代の日本では、ほとんど起こりえないですが)、夜間にものが見えなくなる(鳥目)ことを説明しました。さらに、人間の場合オプシン(をコードする遺伝子)を9種類持っており、その内1種類は暗いところの視覚、3種類は色を識別する色覚、1種類は体内時計の調節や瞳孔径の変化などの「視覚ではない」光受容を担っており、残りの4種類はまだよくそのはたらきがわかっていない、というお話をしました。


150716_2.jpgその後、動物のオプシンがどのように生き物の進化の過程で成り立ち、変化(進化)してきたのかをお話しようと思っていたのですが、授業時間が終わってしまい、話が尻切れトンボになってしまいました。そこで進化の話については、授業後に補足のプリントを作製しまして、矢部先生から生徒さんに配布していただきました。

今回、自分が中学校を卒業して以来初めて中学校内に入り、授業をする機会をいただくという、貴重な経験をさせていただきました。授業中は、生徒さんが真剣にこちらの方を見て、話を聞いてくれたのがとても印象に残りました。お話した内容は、中学レベルを超えて中には大学で学ぶような内容も含んでおり、理解が困難な概念や言葉もたくさんあったと思うのですが、なんとか自分なりに消化しようとする意欲・がんばりを感じまして、感銘を受けました。自分が中学生だった時に、どれだけ真剣に授業を聞こうとしていただろうか、と自問すると反省するばかりです。これも生徒皆さんの日頃の努力と、岩津中学の先生方の取り組みの賜物ではないかと、たった一時限授業させていただいただけで僭越もいいところですが、思った次第です。

いきなりこれまでに習っていないような話を辛抱強く聞いていただいた岩津中の生徒さん、事前のやりとりや学校の紹介、補足プリントの配布などをしていただいた矢部教諭をはじめとする岩津中の先生方のご協力に深く感謝致します。この経験をこれからの研究活動や、アウトリーチ活動などに活かしていきたいと思います。

                                  (塚本寿夫 記)