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プレスリリース

有機単結晶エレクトロニクスの扉を開く ―ドーピング有機単結晶のホール効果測定に世界で初めて成功―(平本教授ら)

分子科学研究所の平本昌宏教授、大橋知佳氏(総研大博士課程)の研究グループは、ppmレベルドーピングした有機単結晶のホール効果の観測に世界で初めて成功しました。


シリコンに代表される無機半導体は、ドーピング(微量の不純物添加)によって自由自在にn型化(電子が電気伝導を担う)、p型化(正孔が電気伝導を担う)することができ、その際、発生した電荷を運ぶキャリアの個数と移動速度(移動度)を、磁場を用いたホール効果測定によって、自在に評価できます。しかし、有機半導体においては、ドーピングした有機単結晶自体の作製はもとより、そのホール効果が測定された例もありませんでした。


研究グループは、有機単結晶成長技術と、研究グループオリジナルの1秒当たり10億分の1ナノメータ(10-9 nm)の極超低速蒸着技術を組み合わせて、1 ppmの極低濃度でドーピングしたルブレン単結晶を作製し、ホール効果シグナルを検出することに世界で初めて成功しました。その結果、有機単結晶のドーピング効率は24%と、同じ物質のアモルファス膜の1%にくらべて格段に高性能であることが分かりました。また、キャリアの速度がドーパントによって散乱され低下する現象を初めて直接観測しました。
 

以上の成果は、シリコン単結晶ウェハーを用いたエレクトロニクスと同様の、有機半導体単結晶ウェハーを用いた有機エレクトロニクスの扉を開く意味を持ち、高性能の有機単結晶太陽電池などの有機単結晶デバイスという新しい分野を創造するものです。


本研究は、科研費基盤研究およびNEDOのエネルギー・環境新技術先導プログラムの一環として行われ、ドイツの材料科学の専門誌『Advanced Materials』の4月18日付(オンライン版)に掲載されました。

 

 

研究の背景

シリコン単結晶を用いたLSIチップは、産業の米とよばれ、我が国のエレクトロニクス産業を支えてきました。無機単結晶においては、1つの半導体をドーピングのみでp型、n型にするpn制御技術によって半導体接合を形成し、LSI(集積回路)、LED(発光ダイオード)、太陽電池、等のデバイスを自由自在に作製しています。しかし、有機半導体においては、単結晶にドーピングする技術がなく、単結晶有機エレクトロニクス分野を確立できていません。
 

一方で、現在の、有機EL、有機太陽電池、等のデバイスは、アモルファスや多結晶の有機薄膜が用いられ、ドーピング技術も応用されています。研究グループは、ppmオーダーのドーピングによる有機半導体薄膜のpn制御技術を確立し※1)、ドーピングのみで高効率の有機太陽電池が作製できることを示してきました※2)

そのような中で、研究グループはppmレベルのドーピング効果の本質に迫るには、分子の配列がはっきりと分かっている有機単結晶にドーピングして、その性質を研究することが必要不可欠であるという認識に達しました。幸いなことに、ルブレン(図1)等のバンド伝導を示す有機単結晶は、ホール効果測定が可能であることが分かってきており、ドーピングの本質をホール効果測定によって詳細に明らかにできる可能性がありました。以上のアイデアを実行した結果、「ドーピング有機単結晶のホール効果測定」に初めて成功することができました。

※1)1種類の有機半導体による太陽電池の作製が、全ての有機半導体で可能になった! −フタロシアニン単独薄膜におけるpnホモ接合形成−(分子研プレスリリース 平本グループ)
※2)有機太陽電池をシリコン太陽電池と同じドーピングのみで製作することに初めて成功(分子研プレスリリース 平本グループ)

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図1 ルブレン分子(左)を蒸着して結晶成長させ、同時に、開口1000分の1の回転円板シャッターを用いた極超低速蒸着によって1秒当たり10億分の1ナノメータでドーパント分子(Fe2Cl6)(右)を蒸着して、ドーピング単結晶を作製しました。単結晶の4つの隅に設置した電極を用いてホール効果測定を行ないました。

 

研究の成果

今回、研究グループは、ppmレベルの化学ドーピングしたルブレン単結晶のホール効果の観測に成功しました。

ルブレン分子を1秒当たり1000分の1ナノメータの低速で蒸着することで、ルブレン単結晶基板上に結晶成長させ(ホモエピタキシャル成長)、同時に、研究グループが開発した1秒当たり10億分の1ナノメータ(10-9 nm)の、開口1000分の1の回転円板シャッター(図2下)を用いた極超低速蒸着技術を駆使して、アクセプター性ドーパント(塩化鉄:Fe2Cl6)を蒸着して、1 ppmに達する極低濃度でルブレン単結晶膜にドーピングしました(図1)。単結晶表面の原子間力顕微鏡像から、6角形の結晶が同じ方向に成長していることが分かり(図3)、ドーピングルブレン単結晶が成長していることを証明することができました。

図2上のホール効果測定用セルを用い、1周期100秒でゆっくり変化する、1テスラの交流磁場(図4青カーブ)下において、磁場に同期したホール起電圧(図4赤カーブ)が観測できました。これは、世界で初めて観測されたドーピング有機単結晶のホール効果です。ドーピング単結晶をもちいたからこそ、初めて観測できました。起電圧の大きさから、ドーピングによって生じた正孔の濃度と移動度とドーピング濃度の関係を系統的に調べることができました。有機単結晶のドーピング効率(ドーパントの分子100個に対して何個の正孔が発生するか)は24%と(図5赤カーブ)、同じ物質のアモルファス膜の1%(図5青カーブ)にくらべて格段に大きく、単結晶の高性能を示す結果が得られました。また、正孔の移動度がドーパントによる散乱によって低下することを初めて直接観測しました(図6)

以上のように、ドーピング有機単結晶のホール効果測定に成功することができました。201703_2.png図2 (上)ホール効果測定セルの写真。ルブレン単結晶の上に4つの電極が蒸着されている。(下)開口10分の1の回転円板シャッターの写真。円板が回転し開口部が蒸着ビームの位置にきたときのみ通るので、極超低速蒸着できる。
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図3 ドーピング有機単結晶表面の原子間力顕微鏡像。

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図4 1周期100秒でゆっくり変化する交流磁場(青カーブ)下において、磁場に同期したホール起電圧(赤カーブ)が観測できました。これは、世界で初めて観測されたドーピング有機単結晶のホール効果です。

201703_5.png図5 有機単結晶のドーピング効率(ドーパントの分子100個に対して何個の正孔が発生するか)は24%と(赤カーブ)、同じ物質のアモルファス膜の1%(青カーブ)にくらべて格段に大きいことを見出しました。

201703_6.png図6 正孔の移動度がドーピングによって引き起こされる結晶の歪みによる散乱によって低下することを初めて直接観測しました。

 

今後の展開

今後、有機単結晶の研究を発展させることで、これまでの有機薄膜では研究できなかった、ドーパントの存在状態、キャリア発生、キャリア散乱などのドーピングの本質的なメカニズムが明らかになり、ドーピング有機単結晶を用いた、有機単結晶太陽電池、有機単結晶EL、などの有機単結晶デバイスが作製できるようになると考えています。今回の成果は、有機単結晶エレクトロニクスという新分野の扉を開いたと考えることができます。シリコン単結晶エレクトロニクスと並列する有機単結晶エレクトロニクスが社会に応用される端緒になる可能性があります。

 

用語解説

ホール効果 
図1の、電極(1)(3)の間に電流を流しながら(青矢印)、磁場をサンプル表面に垂直にかけると(黒矢印)、ローレンツ力によって、電子の移動方向が曲がり(緑矢印)、その結果として、電極(2)(4)の間に電圧が生じる現象。電子、正孔の区別ができ、存在するキャリアの濃度、移動度を同時に測定できる。

 

論文情報

掲載誌:Advanced Materials

論文タイトル:
Hall effect in bulk-doped organic single crystals
ドーピング有機単結晶におけるホール効果

著者:Chika Ohashi, Seiichiro Izawa, Yusuke Shinmura, Mitsuru Kikuchi, Seiji Watase, Masanobu Izaki, Hiroyoshi Naito, Masahiro Hiramoto

DOI: 10.1002/adma.201605619

掲載予定日:2017年4月18日

 

研究グループ

本研究は、自然科学研究機構分子科学研究所(物質分子科学研究領域)の平本昌宏教授、大橋知佳(総研大博士課程)と、豊橋技術科学大学の伊崎昌伸教授、大阪府立大学の内藤裕義教授との共同研究により行なわれました。

 

研究サポート

本研究は、科研費基盤研究(B)(課題番号:25286044)、および、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のエネルギー・環境新技術先導プログラム研究テーマ「pn制御有機半導体単結晶太陽電池の開発」(研究代表者:平本昌宏)の一環として行われました。

 

研究に関するお問い合わせ先

平本 昌宏(ひらもと まさひろ)
自然科学研究機構・分子科学研究所 物質分子科学研究領域 教授
TEL/FAX: 0564- 59-5537 
E-mail:hiramoto_at_ims.ac.jp(_at_ は@に置き換えて下さい)

 

報道担当

自然科学研究機構・分子科学研究所・広報室
TEL/FAX  0564-55-7262
E-mail: kouhou_at_ims.ac.jp(_at_ は@に置き換えて下さい)