分子研の散歩道1 研究者のよこがお

 

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「内殻電子」の研究者(小杉信博先生)

原子の構造を思い出して下さい。原子核の周りには電子があります。高校では原子の周りの電子がいくつかの層(電子殻)に分かれていること、最も外側の電子殻に存在する電子を価電子、ということを習います。価電子より内側の電子殻に存在する電子のことを内殻電子といいます。普通の環境下での化学反応には価電子が関わっていますが、X線を原子や分子に照射すると、内殻電子が励起(原子や分子が興奮した状態になること)されます。  

小杉先生は、分子の中で原子に局在している内殻電子に注目して、物質の電子状態の研究を、光(X線も光の一種です)を使って得られる情報などから行っています。

もっと詳しく知りたい方は、下記をご覧ください。
https://www.ims.ac.jp/research/group/kosugi/


研究者になったのはなぜですか?

幼少のころから、将来、研究者になると漠然と思っていました。父の影響が大きかったと思います。実は私が4,5歳の頃、「将来役に立つ」と言って、父が丸善から出ていた化学の専門の全集(実験化学講座第1版)を買い求めていたんです。また、小学生の頃には、父が会社から少し分けてもらった薬品とそのころはデパートで購入することができた実験器具で、家でちょっとした実験をやって遊んでいました。

今の研究テーマ「内殻電子」との出会いは?

学部4年の時は、のちにノーベル化学賞を受賞することになる福井謙一先生の研究室で分子軌道法という理論を使った研究をしていました。大学院に進学するとき、分子軌道法が応用できる内殻電子の励起の実験をしたいと考えました。それには、シンクロトロン光(電子が円周上をほぼ光の速さで走る時に発生する光)を使ったX線(放射光)が必要でしたが、それを使える施設はなく、東京大学を中心として大きな加速器施設を作る計画の準備が始まったところでした。私は、修士1年の時から東京大学にうつり、放射光施設ができる前の準備としてESCA(エスカ)と呼ばれる内殻電子スペクトルの実験を始めました。のちに福井先生と同時にスウェーデンのKai Siegbahn先生がESCAの開発でノーベル物理学賞を受賞したのも不思議な縁です。そのころはまた、計算機の分野でも大きな変化があり、国家プロジェクトとしてベクトル型のスーパーコンピューターの開発が始まった頃でもありました。私はスーパーコンピューター向きの分子軌道法のプログラムの開発を国内で最初に手がけて、東京大学や分子科学研究所の計算機センターに登録したりしていました。このように、2つの最先端の技術に関わりながら、内殻電子の励起の研究が始まり、発展させながら今日にまで至っています。  

分子研では、UVSOR(分子研で最も大きな共同利用装置)でシンクロトロン光のX線を使って測定系を作り上げてきました。気体の測定は以前から行われていましたが、比較的最近、クラスター(数個から数百個の原子または分子が集まって形成される原子または分子の集団)についても測定系を完成させることができました。今は、液体についても測定できるように開発を進めています。

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