ご挨拶

分子科学研究所
創立50周年にあたって

 分子科学研究所は、広く研究者の共同利用に供する事を目的に、1975年4月に設立された大学共同利用機関です。様々な物性や機能を有する分子の構造や機能の発現機構、電子状態などの解明を目指す国内外の研究を施設利用や共同研究で支えると共に、自らも実験と理論の両面から分子科学を先導する研究を推進してきました。1982年の極端紫外光実験施設(UVSOR)と1984年の錯体化学実験施設設置により、ほぼ現在の陣容が整う事となりました。2000年に生理学研究所、基礎生物学研究所と共同で統合バイオサイエンスセンター(現 生命創成探究センター)が設置され、分子科学の視点から生命科学を研究する領域が新たに加わり、研究対象がより複雑系へと向かうことになりました。

分子科学研究所で進められている研究は、時代を切り拓く先進性が求められています。有機半導体・有機太陽電池、量子ダイナミクス理論、キラルフォトニクス・スピントロニクス、理論と実験による生体分子の構造と作用機序、糖鎖、量子コンピュータ、先進的光電子分光、マイクロ固体フォトニクス、走査型プローブ顕微鏡による界面計測、水中不均一系触媒、カチオン性ハロゲン触媒、結晶スポンジ法など先導的な研究、計測技術の革新が今まさに進められています。

設立以来、研究組織の見直しや法人化を経た今も、設立当初の共同利用拠点としての役割は何も変わるものではありません。2007年に開始した機器利用が全国の大学間で相互に可能となる事を目指す「機器利用のネットワーク化」の取り組みや、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ事業は機器センターの活動として引き継がれています。こうした施策で、多くの機器が共同利用、あるいは共用されることは非常に重要なことですが、分子科学研究所が保有する中規模機器の更新が思うように進んでいない現状に鑑みて、生理学研究所や基礎生物学研究所、さらに多くの大学と共同で新たな学術分野開拓の提案を積極的に行うなど、予算獲得のための新たな努力も始めています。

分子科学研究所では、研究系教員の内部昇任を認めていません。実験施設や装置などに恵まれた環境で自由に研究を進め、そこで育った若手研究者は大学や他の研究機関でさらに活躍して欲しいという願いを込めた施策によるものです。2022年のデータでは、分子科学研究所を転出した約300名の助教および准教授中、8割の方が上位職、6割弱が教授職に就いており、国内の研究人材育成・流動化にも寄与しているといえます。今後、独立PIへの女性教員や外国人研究者獲得が人事政策上の大きな課題と言えます。

50年の節目を迎えるにあたり、次の50年の学術研究の進むべき方向を、時代の変化と共に見据え、基礎学術研究を牽引する機関として果たすべき役割を常に自問自答しながら、さらに努力を重ねていく所存です。

分子科学研究所所長
分子科学研究所創立50周年記念基金への募金について