
TOPページ > 大森 賢治
今の研究テーマ「量子の世界」との出会いは?
私は、理学系の物理の出身とよく間違われますが、実は工学部の出身で、しかも化学反応の過程を研究していたんです。反応速度と反応から生じる生成物を、レーザーを使って測定していたんです。“化学反応の途中を見てみたい”という興味がありました。
東北大学に就職したのですが、そこは理学系の研究室で、教授はレーザー分光学を専門とする方でした。私とは全く専門が異なりますが“反応する瞬間に結合が切れるところを見たい”という点で興味が一致していました。でも、まだ、そういうことが見られるような速いレーザーもなく、独自の手法で速い状態を見る研究をしていました。
あるとき、大きな装置が買えるチャンスがやってきて、当時、最高性能のレーザーが入り、速い現象が研究できるようになったんです。やってみたら、“量子状態”が見えてしまったんです。後は、反応の研究はそっちのけで、現在のテーマである量子の世界の探求にのめり込みました。
どのように研究を進めたのですか?
波としての性質を持てば、重ね合わせてやれば干渉(波が重なり合い、強めあったり弱めあったりする現象)するはずです。干渉を観測するための“干渉計”ができるまでに、3年もかかりました。毎日毎日、実験系の振動を無くすための工夫などに費やしました。それまでは、何の結果も出ませんでした。東北大学時代からずっと一緒にやってきた千葉寿さん(現岩手大学)とよく、「こんなに大変だとわかっていたらやらなかったね」と話すのですが、先のことを考えなかったからできたんだと思います。
分子研に来る少し前、初めて干渉が見えたときは嬉しかったですね!
最も気に入っている仕事は?
2009年に、フィジカルレビューレターズ(物理学の一流専門ジャーナル)に掲載された論文ですね(詳しくは、https://www.ims.ac.jp/news/2009/02/24_2354.html)。
これは、2006年にサイエンス(米国の一流科学専門雑誌)に載った仕事の、いわば完成版というものです。2009年の論文で、これまでの基盤技術は完成した、と言えます。
今、最もホットな興味は?
これからは、完成させた基盤技術を使って応用をしていきたいですね。応用といっても、いわゆる産業的な応用ではなく、物理学上の基本問題に挑む基礎科学への応用です。
もちろん、“量子の世界”の謎解きの核心にも迫っていきたいと思います。
この謎解きは、まだ20年くらいは私を楽しませてくれるのではないか、と思っています。