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2009/02/24

プレスリリース

原子のさざ波をナノテクノロジーの1000倍の精度でレーザー加工(大森グループ)

自然科学研究機構 分子科学研究所の大森賢治教授らは、JST基礎研究事業の一環として、分子の中を10兆分の1秒スケールで動き回る量子力学的な原子の波の形状を、ナノテクノロジーの1000倍の精度で超精密加工することに成功した。

光を使うと、工作機械では不可能な細かい加工が可能だが、波長(1万分の1ミリ程度)以下のサイズのものを加工することはできない。ところが今回研究チームは、原子や分子が持つ量子力学的な波の性質を特殊なレーザー光を用いて制御するという全く新しい発想によって、波長の10万分の1の微小空間で多彩な加工を行うことに成功した。

 

研究チームは、まず、10兆分の1秒の時間幅を持つ2発のレーザーパルスの時間間隔を、さらにその1万分の1の精度で調節できる装置を開発した。この装置から発射された2発のレーザーパルスをヨウ素分子に照射して、5億分の1ミリ程度の微小な空間を観察できる特殊な手法で分子の内部の時間変化を観察した。すると、レーザーパルスのエネルギーを吸収して2個の原子の波が発生し、これらがぶつかって2億分の1ミリ間隔のさざ波が現れ、これが美しいカーペットのような時空間模様を描いた(図1を参照)。照射するレーザーパルスの間隔を微妙に調節したところ、さざ波の配置が変化し、この量子のカーペットを多彩にデザインできることがわかった。このようなミクロな世界では、原子は粒であると同時に空間的に広がった波のような存在でもあり、ある瞬間に原子がどこにいるのかを確定することは原理的にできない。図1のカーペットの山の部分は原子が「存在し得る」空間であり、谷の部分は「存在し得ない」空間である。つまり、カーペットの山と谷の位置を入れ替えることは、原子の存在しない空間の位置を4億分の1ミリの精度で操作することに対応している。これは現代の最高精度を誇るナノテクノロジーの分野で新材料として期待されるカーボンナノチューブの直径の1000分の1に相当する史上最高の精密加工である。

 

今後、粒子性と波動性が共存するミクロな波の世界の謎を解き明かす検証実験や、1個の分子で膨大な情報を処理する量子メモリー、あるいはナノテクを超える精度で物質内の化学結合を操作する未知の量子テクノロジーの開発への寄与が期待される。

 

この研究は仏ツールーズ大学との共同研究である。本研究成果は、近日中に米物理学会誌「Physical Review Letters」(電子版)に発表される。

 

図1:超精密加工された量子カーペット。2発のレーザーパルスの間隔を0.5フェムト秒ずつずらすことによって、原子のさざ波が描く美しい時空間模様を多彩にデザインすることができる(フェムト:10-15;ピコ:10-12)。

研究サポート

この成果は、JST 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)の研究領域「量子情報処理システムの実現を目指した新技術の創出」における研究課題「分子の電子・振動・回転状態を用いた量子演算基盤技術の開発」(研究代表者:百瀬孝昌((独)情報通信研究機構 客員研究員/ブリティッシュコロンビア大学 教授)、共同研究者:大森賢治)によって得られました。

本件に関するお問い合わせ先

大森 賢治(おおもり けんじ)

自然科学研究機構 分子科学研究所 光分子科学研究領域 光分子科学第二研究部門、分子制御レーザー開発研究センター(併任)

Tel : 0564-55-7361 Fax:0564-54-2254

E-mail:ohmori_at_ims.ac.jp(_at_は@にしてください)

 

自然科学研究機構 分子科学研究所 広報室 Tel:0564-55-7262

科学技術振興機構 広報・ポータル部広報課 Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432

 

■追記

なお、本件は下記の新聞に掲載されました。

化学工業日報(2009年2月24日付)

日刊工業新聞(2009年2月25日付)

日経産業新聞(2009年2月26日付)

科学新聞(2009年3月6日付)

中部経済新聞(2009年6月8日付)

山陽新聞(2009年6月9日付)

岐阜新聞夕刊(2009年6月11日付)

大分合同新聞夕刊(2009年6月27日付)

岩手日報夕刊 (2009年7月6日付)