分子研の散歩道1 研究者のよこがお

 

TOPページ > 櫻井 英博

出会いの後はどのように進めたのですか?

当時の実験ノートを見ていただくとよくわかると思います。
(櫻井先生からノートを見せていただく。それまでの研究ノートに、突如としてスマネンの絵が出てきます。そしてまた元の研究の計画や結果が出てきます。)
こんなふうに、集中的に考えたのではなくて、ときどき思いついては考えるという進め方でした。
1997年、博士研究員としてアメリカに滞在している時に、自分の頭の中では合成経路が出来上がりました。アイデアが固まったんですね。
1998年に日本に戻ったときに、“フラーレンを合成するための第一段としての合成”として温めてきたアイデアを提案しました。

ようやく合成に成功したのが2003年です。

ずっとスマネンの合成に集中されたのですか?

いえ。その間、並行して他の仕事もしていましたよ。最初は自分一人で実験していましたが、途中大阪大学に異動してからは、学生さんと二人で細々と続けていました。

研究スタイルの特徴は?

常にテーマを二本立てにするというフレキシビリティが特徴でしょうか。
最初に作るものを決めて、美しい合成ルートを求めるという“ターゲット・オリエンテッド”なテーマをもちます。
また、同時に、主流の研究をやっている過程で何か新しいネタを拾ってくる、いわば“キュリオシティ・オリエンテッド”なテーマもやっています。
そもそも、私の博士論文の最初のテーマは有機クロム錯体の研究でしたが、結局最終的に博士論文のメインテーマとなったのは、もとのテーマをやっている途中で見つけた説明のつかない副反応についてのものです。この反応の機構を考えているうちに、違う概念の反応が開発できる可能性を思いついたのです。このもともとのテーマから外れた研究で博士論文を書き上げてしまいました。
私自身は、二番目に挙げた、何かを拾ってきてやるというのが好きですね。

でも、これは注意しないと横道にそれて行き止まりになってしまうということもよくあるんです。このあたりのさじ加減が大切です。

さじ加減で大切なことは何ですか?

そこにどういう面白いサイエンスがあるか、そういうことを俯瞰する力が必要です。

研究室のメンバーが何か拾ってきたときにも、そこに面白いサイエンスがなければ厳しくバッサリ切りますよ。こういうのも研究者育成のためのトレーニングだと考えています。

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