分子科学研究所

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大学院教育

総研大生コラム - 小田川 陽睦さんの体験記

Les houches (France)にてワークショップへの参加とTubingen (Germany)での短期研究滞在

小田川 陽睦さん
分子科学コース2年(執筆当時)
分子研レターズ 94号 掲載(2026年9月号)

私は今春、フランスのLes Houchesで開催された "Workshop on Longrange Ultracold Interactions 2026" に参加する機会をいただきました。

このワークショップは、長距離相互作用を特徴とする量子系に関する研究者および学生が、実験・理論の垣根を越えて集うものです。本ワークショップは、フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究ディレクターであり、フランス光学研究所(Institut d'Optique)内のCharles Fabry研究所のメンバーであるAntoine Browaeysによって企画されました。

対象とする物理系は中性原子、イオン、分子、磁性原子など多岐にわたり、それぞれのプラットフォームにおける相互作用の制御や応用について活発な議論が行われました。会場はフランス・アルプスのモンブラン山麓に位置するLes Houchesの物理学スクールであり、5日間にわたって開催されました。このスクールは都市や大学から離れた環境にあり、参加者が日常の研究活動から離れて議論や共同研究に集中できるよう設計されています。また、フェルミやパウリといった著名な物理学者が講義を行った歴史を持ち、現代のサマースクールの原型ともいわれる場所です。

プログラムでは、計28件の45分講演と6件のチュートリアル講演が行われ、異なる量子系における基礎から最前線まで幅広い内容が取り上げられました。さらに、毎晩1時間半にわたるポスターセッションが設けられ、参加者同士の密な議論の場となっていました。私は "Development of a Neutral-Atom Quantum Computer in Okazaki" という題目でポスター発表を行い、分子科学研究所・大森グループにおける中性原子量子コンピュータの研究方針、最新の成果、さらに自身のテーマであるレーザー光源開発について紹介しました。多くのポスドク研究員や博士後期課程の学生から具体的かつ本質的なコメントをいただき、自身の研究を多角的に見直す良い機会となりました。

また、本ワークショップは私にとって初めてのヨーロッパでの学術活動でもあり、主にヨーロッパ各地から集まった研究者との交流を通じて、新たな研究トピックに触れるとともに、自身がこれまで取り組んできた中性原子系以外の量子系の最新の発展についても理解を深めることができ、これまでの知見をさらに広げる機会となりました。

さらに、学術的側面にとどまらず、本ワークショップはフランス・アルプスに位置するLes Houchesで開催されたことも特徴的でした。スケジュールにはランチ後に約4時間半の休憩時間が設けられており、その時間を利用してスキーやスノーシューを楽しむことが主催者から推奨されていました。ディスカッションを通じて知り合った参加者とともにアクティビティを楽しんだり、そこからさらに新たな交流が生まれたりと、研究面だけでなく人間的なつながりも深めることができました。フランス・アルプスの自然を満喫すると同時に、自身のキャリアや研究生活にとっても非常に有意義な時間を過ごすことができたと感じています。

このワークショップ参加後、私はさらに4週間、ドイツのテュービンゲン大学にてChristian Gross教授の研究グループに滞在する機会をいただきました。この滞在は、中性原子量子コンピュータに関する日独間のASPIRE共同プログラムの一環として支援を受けたものです。

Gross研究室には、カリウム原子を用いた光ピンセットアレイ、極低温環境におけるストロンチウム原子の光ピンセットアレイ、リチウムとエルビウムの二種原子実験の3つのチームがあり、私は主にカリウム原子の実験チームに参加しました。滞在中は4週間の短期プロジェクトとして「外部共振器レーザーの組み立てと評価」に取り組みました。加えて、日常的な実験やミーティングにも参加し、現在直面している課題や実験上の制約について相互に知識共有を行うことができました。

研究室全体の雰囲気は非常に温かく、特にストロンチウムのチームは、私が所属していないにもかかわらず、興味を持った内容についていつでもラボに来て学んでよいと快く受け入れてくれました。夜にはメンバー同士でパブにビールを飲みに行ったり、食事に出かけたりする機会も多く、テュービンゲンの美しい街並みと相まって、充実した時間を過ごすことができました。

また、Christian Gross教授は非常に魅力的な人物であり、ミーティングやランチの場においても常に熱意をもって楽しそうに議論を行う姿が印象的でした。滞在中、テュービンゲンから電車で約3時間の距離にあるダルムシュタット工科大学の研究室を見学したいと相談した際にも、強く後押ししていただきました。その結果、同大学において2つの研究室訪問に加え、45分間のセミナー講演を行う機会を得ることができました。日本語であっても45分間の口頭発表の機会は多くないため、非常に貴重な経験となりました。講演後には約1時間、コーヒーを交えながらカジュアルに研究について議論する時間も設けていただき、大変印象深い経験となりました。

今回の滞在のきっかけとなったASPIREプログラムは5年間にわたるものであり、この機会に知り合ったドイツ側の学生たちと今後も継続的に連携していくことができると考えると、大変恵まれた環境にあると感じています。

改めて振り返ると、自身にとって初めてのヨーロッパ渡航であったにもかかわらず、この滞在は修士1年目の締めくくりとして、自分の立ち位置を見つめ直し、視野を広げるうえで非常に有意義なものでした。この経験を通して大きな自信を得るとともに、多くのことを学びました。

現在、自身が身を置く環境に対して強い感謝の気持ちを抱いています。1年前に入学した当初は英語でのコミュニケーションも十分ではありませんでしたが、英語を基本とするグループ環境の中で日常生活を送る中で、学術的な議論にも無理なく参加できるようになりました。博士前期課程1年目でありながら、このような国際的な滞在の機会を得られたことを大変ありがたく感じています。この滞在を提案してくださったSylvain准教授、日ごろからお世話になっております富田助教をはじめとした大森グループのメンバー、また本滞在の手続きをサポートしてくださったグループの秘書チームの皆様に深く感謝申し上げます。

小田川 陽睦さんの略歴

おだがわ・はるむ
2025年4月より大森グループに所属し、量子コンピュータチームの一員として中性原子方式量子コンピュータの開発に従事しています。個人研究では、高精度な原子制御を実現するための原子冷却技術、高精度な初期状態の生成、ならびにそれらの実現に不可欠な安定かつ高出力なレーザー光源の開発を主なテーマとしています。