分子科学研究所

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2008/06/03

研究成果

炭素とフッ素のみでできた有機物の半導体を開発(鈴木グループ)

半導体といえばシリコンなどの無機物を思い浮かべますが、最近では有機物の半導体による有機EL(発光素子)、トランジスタ、太陽電池が開発されています。これらの有機デバイスは、薄い、フレキシブルといったシリコンデバイスにはない優れた特徴を持っています。我々のグループでは、有機ELやトランジスタのために、新しい有機半導体を設計・合成しています。

 

半導体にはp型とn型の2種類あります。p型では、正孔(ホール)がキャリアとなり、プラスの電荷が固体中を移動していきます。一方、n型では電子が主体となります。有機半導体の研究はすでに半世紀以上の歴史がありますが、デバイス材料として使われ始めたのは1980年代の後半からです。有機物の場合、カチオンラジカル(正孔)のほうがアニオンラジカル(電子)より安定となる物質が多くあります。そのため、p型半導体の研究が主流となり、n型半導体の有機材料はあまり知られていませんでした。アニオンラジカルは、分子上に余分な電子が1個あるわけですから、これを安定化させるような構造を考えてやればよいわけです。このためには、π電子をたくさん持つベンゼンのような芳香族分子を用い、さらに、余分な電子を吸収してくれる置換基を取り入れる方法が有効です。

 

我々は、電子求引基としてフッ素に注目しました。フッ素はすべての元素の中で電気陰性度が最も高く、サイズは炭素より小さく、さらに、炭素-フッ素結合はすべての共有結合の中で最も強いといった特徴を持ちます。しかしながら、完全にフッ素化された芳香族分子は非常に少なく、電子材料としての報告もありませんでした。我々は、これまでにオリゴフェニレン、オリゴチオフェン、テトラセン、ペンタセン等の完全フッ素化を行い、有機ELおよび有機トランジスタとしての評価をしてきました。これらの成果により、最近ではフッ素化芳香族化合物のn型半導体材料としての評価が高まってきました。

 

我々は、新たなターゲット分子としてオリゴフルオレン化合物を選びました。オリゴフルオレンはオリゴフェニレンより平面性が高く、π共役がより有効なため、電子親和力が高くなることが期待されます。このため、n型半導体としての性能が向上するはずです。今回、オリゴフルオレンを完全フッ素化し、4量体まで合成することに成功しました。予想通り電子親和力が非常に高く、薄膜では既存の材料より高い電子移動度と優れたアモルファス性を示すことがわかりました。有機ELの電子輸送材料、あるいは高効率で注目されている燐光ELのホール・エキシトンブロック材料としての応用が今後期待されます。

 

図 完全にフッ素化されたオリゴフルオレン4量体の分子構造。緑色が炭素原子、黄色がフッ素原子を表す。

 

発表論文

雑誌:Chemistry - A European Journal (Communications), 第14巻, 4472-4474ページ (2008年)

題目:Synthesis, Structure, and Transport Property of Perfluorinated Oligofluorenes

著者:大久保公敬,阪元洋一,鈴木敏泰(分子科学研究所),都築俊満,熊木大介,時任静士(NHK放送技術研究所)