分子科学研究所

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2015/03/11

アウトリーチ

福田良一先生の出前授業記 (2015年3月6日実施)

 3月6日(金)に竜南中学校で2年生を対象に「計算化学~実験でも暗記でもない化学」という授業を行いました。

 まずは、 私が研究している分野が、化学の中でも「計算化学」や「量子化学」と呼ばれる分野であること、そして、こうした分野は、中学校や高等学校の授業では取り上げられないため、一般にはあまりなじみがないが、研究・開発の現場では、普通に使われている物である事を説明しました。

 次に、最近のコンピューターの発達にともない、コンピューターシミュレーションという研究手法が様々な分野で広く使われている事を説明し、化学反応や物質の性質を調べる化学の分野でも、全く実験を行わずに、コンピューターによる計算だけで仕事をしている研究者がいる事を説明しました。

 化学反応や物質の性質をコンピューターによる計算で予測するには、物質を分子や原子より小さな、原子核と電子のレベル にま で分割して考える必要がある事を説明し、このようなミクロの世界では、「量子力学」の原理に従い「粒子」は、「波」の様に振る舞う事を説明しました。このような電子の「波」の重ね合わせが化学結合を作ったり、物質の性質を決めている事を話しました。また、波は、シュレーデインガー方程式により、数学的に計算できる事を話しました。

 生徒たちは、こうした量子力学の話はよく分からなかった様ですが、私の研究内容が、「コンピューターを使って、ある原理に基づく数学の式を計算し、分子の性質を予測すること」だということは理解したようです。

 また、量子化学の発展に日本の研究者が大きく貢献している事を、日本人で初めてノーベル化学賞を受賞された福井謙一先生の 業績を上げて説明しました。残念ながら、福井謙一先生のことは、みなさん知らなかったようです。

  その後、パソコンとソフトウェアを使って、量子化学計算の実演を行いました。空気中の分子である窒素や二酸化炭素の分子振 動を計算し、これらの分子の赤外線吸収の強さを調べました。窒素や酸素、アルゴンといった気体は、赤外線吸収を持たないが、二酸化炭素や水といった、3原子分子では、赤外線を吸収するということが、量子化学計算で分かりました。この赤外線吸収が、現在問題になっている「温室効果」の原因であることを説明しました。「環境問題」は中学校の授業でも取り上げられているようで関心が高く、身近な問題がコンピューターを使った計算で化学的に説明されていく様子を、少し不思議そうに聞いていました。

 中学生にとって、計算化学や量子化学は全く初めて聞く言葉ですから、初めは戸惑ったようですが、コンピューターは今の中学生には身近な存在であり、それが、最先端の研究に使われる事には関心を示していたようです。学校の理科の授業では習わないような事が、実はたくさんあり、研究・開発の現場で役に立っているという事が少しは理解してもらえたようです。

(福田良一 記)