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協奏分子システム研究センター秋山グループ

場所:明大寺キャンパス 研究棟2F
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生物時計,生体リズム,時計タンパク質,遅く秩序あるダイナミクス,X線溶液散乱,動的構造解析

生物時計タンパク質が24時間周期のリズムを奏でる仕組みを解き明かす

「生物(体内)時計」という言葉を皆さんが意識するのはどのようなときでしょうか。渡航や帰国後に頻発する眠気、だるさ、夜間の覚醒…、これら時差ボケの症状は、私たちが生物時計の奏でる24時間周期のリズムのもとで生活していることの証です。生物は非常に巧みな方法で、24時間という地球の自転周期を生体分子の内に取り込んでいます。私たちの研究グループは、24時間周期の根源を分子科学的に解明するという研究テーマに挑戦しています。

生物が体内に時計を宿している……、これが認知されるようになったのは最近のことです。それまでは24時間周期のリズミックな生命現象が見つかっても、「地球の自転に依存した環境変化を計っているに過ぎない」と荒唐無稽な存在として扱われることもあったそうです。生物時計の実在性は後の数々の発見により確固たるものになります。その一つはタンパク質時計の発見です。シアノバクテリアと呼ばれる生物の時計は、3種の時計タンパク質(KaiA、KaiB、KaiC)だけで24時間を正確に刻むことができます。Kaiタンパク質とATPを試験管内で混合すると、KaiCはリン酸を付与された状態と付与されていない状態のあいだを24時間周期で振動します。この発見により、24時間周期のリズムを刻むタンパク質時計の存在が広く認められるようになりました。

一方、時を刻む仕組みの分子科学的理解は進んでいません。1)Kaiタンパク質時計を例に挙げれば、そのダイナミクスは最長24時間(104.94秒)に及ぶ幅広い時間領域に分布しています。溶液中を漂うKaiタンパク質が相互作用するのはせいぜい10-2~101秒のオーダーですし、1,2)私たちが解明したKaiCの分子鼓動も24時間を要するほど劇的かつ複雑には見えません。3)これまでの概念の積み上げでは、「タンパク質分子」という素材で24時間という遅いダイナミクスが実現されている理由を説明できそうにありません。1)

もう一つの謎が周期の温度補償性です。1)これは生物時計に普遍的に見いだされる特徴で、時計の発振周期が温度の影響をほとんど受けません。遅い反応は効率の悪い化学反応で説明できるように一見思われます。しかし、そのような反応系は大きな活性化エネルギーを有し、温度の上昇に従って著しく加速されるのが一般的です。生物時計のからくりに迫るためには、「遅いダイナミクス」と「温度補償性」という一見排他的な2つの性質を同時に説明しなければならないのです。

試験管内で再構成できるKaiタンパク質時計は、24時間周期や温度補償性を分子科学的に解明する絶好の研究対象と言えましょう。私たちの研究グループでは、Kaiタンパク質時計の生化学的な活性測定はもとより、X線結晶構造解析5)やX線溶液散乱2,3,4)を相補的に利用した動的構造解析、赤外や蛍光等による分子動態計測、3,4)計算機を用いた実験データのシミュレーション5)などを行うことで、分子時計の実態解明に取り組んでいます。6)また、生物時計の研究を支える特殊な実験装置や解析ソフトウェアについても独自開発を進めています。このような研究活動を通して、多くの皆さんに生物、化学、物理、制御工学、計算科学を巻き込んだタンパク質時計研究のフロンティアを体験して頂ければと思います。


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KaiCの分子鼓動3)。フィードバック制御下にあるATPase活性(A)をペースメーカーに,KaiCのリン酸化状態(B)やリング状の6量体構造(C)がリズミックに変動する。KaiAやKaiBはKaiCの分子鼓動に呼応して離合集散し(D)、系の振動をより頑強なものとしている。

参考文献

  1. S. Akiyama, “Structural and dynamic aspects of protein clocks: How can they be so slow and stable?” CMLS, 69, 2147-2160 (2012).
  2. S. Akiyama, A. Nohara, K. Ito and Y. Maéda, “Assembly and Disassembly Dynamics of the Cyanobacterial Periodosome” Mol. Cell, 29, 703-716 (2008).
  3. Y. Murayama , A. Mukaiyama , K. Imai, Y. Onoue, A. Tsunoda, A. Nohara, T. Ishida, Y. Maéda, K. Terauchi, T. Kondo and S. Akiyama, “Tracking and Visualizing the Circadian Ticking of the Cyanobacterial Clock Protein KaiC in Solution” EMBO J., 30, 68-78 (2011).
  4. A. Mukaiyama, M. Osako, T. Hikima, T. Kondo and S. Akiyama, “A protocol for preparing nucleotide-free KaiC monomer” BIOPHYSICS, 11, 79-84 (2015).
  5. J. Abe, T. B. Hiyama, A. Mukaiyama, S. Son, T. Mori, S. Saito, M. Osako, J. Wolanin, E. Yamashita, T. Kondo and S. Akiyama, “Atomic-scale Origins of Slowness in the Cyanobacterial Circadian Clock” Science, 349, 312-316 (2015)
  6. 秋山 修志, ”時間生物学と放射光科学の接点”,放射光 (2016).