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凝縮相分子系における量子動力学現象の理論
光合成光捕獲系、凝縮相化学量子動力学理論、エネルギー移動・電荷移動反応、分子世界の自律性
我々が量子力学現象を議論するとき、実のところ、いかなる量子系も純粋な孤立系とは見なすことはできません。常に何らかの外界と接触することで、ときに量子性が破壊され、ときには量子性が頑健に保持される―複雑な分子系においては量子性の維持と崩壊のバランスが化学ダイナミクスの様態に大きな影響を及ぼし得るため「多自由度ゆえに生じる揺らぎや摩擦に曝されながら量子効果はどのような影響を受けるのか」を理解することは、重要な課題となります。
そのような量子散逸現象の顕著な例として、私たちが最近10年ほど取り組んでいる光合成初期過程における電子エネルギー移動や電荷分離過程があります。光合成は光という物理エネルギーを細胞が利用可能な化学エネルギーに変換する分子過程であり、糖の生成を通して地球上の全ての生命活動を維持しています。近年は再生可能エネルギーの観点からも注目され、エネルギー資源問題に応える緊急課題として光合成機構の仕組みを取り入れた分子素子の研究開発が進められています。太陽光の強度が弱い場合には、捕獲された光エネルギーは色素分子の電子励起エネルギーとなりほぼ100%の量子収率で反応中心タンパク質へ輸送され一連の電子移動反応を駆動しますが、広大な物理空間にありながら、また絶え間ない分子運動と揺らぎの中にありながら電子励起エネルギーはどのようにして反応中心へ迷子にもならず一意的に辿り着きエネルギー変換に用いられるのでしょうか?
私たちは、超高速レーザー分光などの実験研究者と密に連携しながら、量子散逸系動力学理論・非線形光学応答理論を駆使することで光合成初期過程におけるエネルギー輸送やエネルギー変換過程などの凝縮相分子系における量子動力学現象の解明に取り組んでいます。
The crystal structure of LHCII isolated from spinach, which is the most abundant photosynthetic antenna complex in plants containing over 50% of the world's chlorophyll molecules.