分子科学研究所

サイト内検索

大学院教育

総研大生コラム - 中村 豪さんの体験記

「おかしん先端科学奨学金制度」について

中村 豪さん
構造分子科学専攻4年(執筆当時)
分子研レターズ 68号 掲載(2013年9月)
「おかしん先端科学奨学金制度」創設記念式(前列の右端が筆者)

総合研究大学院大学 構造分子科学専攻 5年一貫制博士課程4年の中村と申します。このたび、おかしん先端科学奨学金制度の奨学生に採択して頂きました。本奨学金制度は2012年10月、総研大3年生を対象に自然科学研究機構のうち愛知県岡崎市に所在する3研究所(分子科学研究所・基礎生物学研究所・生理学研究所)で、岡崎信用金庫から受入れる寄附金を原資に設けられました。各研究所から1人、合計3人のおかしん先端科学奨学生には年間110万円が支給されます。

総研大の博士課程に進学するまでは、岡山大学自然科学研究科で研究しておりました。当時私は、修士課程修了後は企業での研究職を志望していましたが、就職活動をしているとき、企業で活躍し、よりよく仕事をこなすためには、独立して研究しながら自ら問題を解決できる能力が必要であると考え、進学することに決めました。3年次編入試験を経て、昨年の4月から、錯体物性研究部門 正岡グループに所属しております。新たな環境に慣れ、研究が進みだした8月末に、岡崎信用金庫による奨学金制度が新設されると伺いました。それまでは日本学生支援機構の奨学金を借りて生活していたため、もし採用されれば経済的な負担がとても軽くなると考え、応募することに致しました。

採用試験では、「P-N型配位子を用いた可視光吸収可能な錯体型還元触媒の構築」というテーマで研究成果および今後の展望について発表しました。現代社会は再利用不可能な化石燃料に依存しており、枯渇の恐れや化石燃料の消費に伴う二酸化炭素発生に由来する地球温暖化が懸念されています。このことから、太陽から半永久的に供給される光エネルギーを利用し、アルコールなどの燃料分子を作り出す人工光合成システムの開発は、地球の環境・エネルギー問題解決のための重要な研究課題です。その鍵となる反応の一つである二酸化炭素の光化学的/電気化学的多電子還元は、一酸化炭素、ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノールなどの様々な物質の生成が考えられ、それらの選択的合成は困難とされています。P-N型配位子は反応調節・選択性への優位性に加え、還元触媒能の向上、光反応の効率化に優れていると考えられており、この配位子を用いて錯体型光還元触媒を設計しました。これまでに、目的とする錯体触媒の二種類の構造異性体(cis型・trans型)を反応温度の制御により選択的に合成できることを見出しました。単離した2つの異性体間で酸化還元特性、および分光・電気化学的性質が大きく変化し、その相関の解明に成功しました。両異性体ともに二酸化炭素の還元能力を有することを確認し、P原子の導入が基質である二酸化炭素の捕捉に対して優位にはたらくことを実証しました。これまでは2電子還元体である一酸化炭素とギ酸しか効率的な生成が達成されていませんが、二酸化炭素補足の優位性を示した本研究成果によって、ホルムアルデヒドやメタノールといった多電子還元体生成の足がかりになると期待しています。そのため今後は、構造制御による触媒機能の調節や、中心金属の選択による触媒機能の調節を行い、二酸化炭素還元反応の効率化や選択性の向上を目指して行きたいと思います。植物から独立した光エネルギー変換システムである人工光合成実現のための基礎研究として多大な波及効果があると考えられます。

奨学生として採用された後、2013年2月28日に岡崎信用金庫本部で執り行われた奨学金創設記念式典に出席しました。そこでは記者からインタビューを受け、その内容が、東海愛知新聞(3月1日付)、中日新聞(3月6日付)に載りました。記事のコピーを大学院係から頂いたとき、おかしん先端科学奨学生としての責任を強く感じました。特に、中日新聞から「岡崎からノーベル賞を」という見出しで記事になっており、世界を代表する研究者を目指す意気込みが湧きました。これからも、総研大生、分子研研究員、そしておかしん先端科学奨学生として分子科学の発展に貢献できるような研究を続け、研究成果を岡崎の地から世界へ次々に発信できるよう精進していく所存でございます。

実は、応募するまで岡崎については分子研のことしか知らず、岡崎信用金庫が日本で第3位の規模を誇る”メガ信金”であることを後ほど知りました。岡崎のことを全くわかっていないと痛感し、最近は岡崎の活動にできるだけ参加することにしています。そこで、大学生のときに打楽器を演奏した経験があったので、市民オーケストラである岡崎フィルハーモニー管弦楽団に入団し、月に2回程度、岩津にある公民館で練習しています。毎年2回演奏会を主催しており、次回は2014年1月19日(日)の予定です。(会場はお隣幸田町の町民会館です。)研究生活の羽休めにクラシック音楽を楽しんでみるのはいかがでしょうか。また、岡崎や分子研の良さを知っていただくために、昨年度から研究室のメンバーと一緒に研究室Twitter、そしてfacebookページの運営を始めました。オープンキャンパスに来た学生から「Twitterやっています。いつもつぶやきを見ています!」と聞いたときは、学生とのつながりを実感することができ、嬉しく思いました。今年の4月末に、中村敏和先生が中心となって分子科学研究所のfacebookページを立ち上げられ、私も僭越ながらページの管理人として参加しております。日々のプレスリリースをはじめ、分子研の近況について掲載しています。

最後になりましたが、岡崎信用金庫、大学院係の皆様にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

中村 豪さんの略歴

なかむら・ごう
2010年岡山大学理学部化学科卒業、2012年同大学院自然科学研究科博士前期課程修了後、総合研究大学院大学物理科学研究科3年次編入。生命・錯体分子科学研究領域の正岡グループにて、金属錯体による二酸化炭素の多電子還元反応について研究を行っている。