分子科学研究所

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大学院教育

総研大生コラム - 中村 豪さんの体験記

先端研究指向コースを活用した海外短期留学

中村 豪さん
構造分子科学専攻5年(執筆当時)
分子研レターズ 71号 掲載(2015年3月)
University of California, Santa BarbaraのFord研究室。前列左端が筆者。 後列左端がFord教授。

総合研究大学院大学 構造分子科学専攻 5年一貫制博士課程5年の中村と申します。本コラムでは、アメリカのカリフォルニア州サンタバーバラで、2013年11月から2014年3月にかけて過ごした研究生活について記したいと思います。遡ること2013年3月、4年次に進級する際に先端研究指向コースを選択しました。国際学会はおろか海外旅行すら経験に乏しかったので、始めは不安や緊張も正直ありましたが、学生の間に一度は海外留学をしてみたかったので、絶好の機会であったと思います。総研大にはこのコース選択の他に、海外学会等派遣事業もあることから、留学してみたい学生にとって恵まれた環境であるとつくづく感じます。

私はこれまで、水の酸化や二酸化炭素還元といった小分子の活性化を目標とし、反応活性サイトを有するルテニウム錯体の設計を行い、その電気化学的特性について研究を進めてきました。錯体の構成部位としてリン原子を含むホスフィン化合物を使うと、二酸化炭素捕捉に関して、ホスフィン部位が優位にはたらくことが明らかになりました。そこで、これまで創製した錯体が、他の小分子に対してどのような影響を及ぼすのか調べたいと考え、University of California, Santa Barbara (UCSB)のPeter C. Ford教授のグループを留学先として選びました。Ford先生は光反応化学研究の第一人者であり、一酸化窒素(NO)といった生体調節因子の光化学的制御や、二酸化窒素(NO2)配位子の還元反応機構の解明に着手しています。今回の留学では、NOやNO2といった窒素酸化物を含むルテニウム錯体の電子的性質や光化学反応に対するホスフィンの効果について調査致しました。

滞在先のサンタバーバラは、ロサンゼルスから車で3時間、飛行機で1時間の距離に位置し、西海岸を代表するリゾート地で、サーファーにも人気の場所です。気候は年中暖かく、真冬でも日中は半袖で過ごせるくらいです。町並みはスペイン風で、図書館や劇場はもちろん、マクドナルドやスターバックスまでベージュ基調に統一されています。UCSBも例外ではなく、どの学部を見ても印象的でかつ綺麗な建築物が立ち並び、南は海、北は山と美しい景色にも囲まれ、就業環境としては「最高」と言って間違いないと思います。また、今年のノーベル物理学賞を受賞した中村修二先生も、このUCSBで教鞭を執られています。

一般的にアメリカにはパスポートとESTAさえあれば入国できますが、3ヶ月を越える旅程には渡航ビザが必須です。研究を目的としたビザの取得には必要な書類が多く、思いのほか時間がかかってしまいました。日頃の研究の合間を縫って留学の準備をしている内に、気がつけば出発の11月になりましたが、事前に住む場所が決められませんでした。というのもUCSBの11月はセメスターの途中で、留学生寮はおろか、シェアハウスすら全く空いていなかったからです。不安を抱えながらの出発でしたが、現地に行ってしまえばどうにかなるもので、数日間大学が運営するホテルに泊まった後、研究室の学生からホームステイ先として、インドネシアからの移民であるTumble一家を紹介して頂きました。4人家族でいつも皆明るく、毎晩色々な話題で盛り上がり、英語を学ぶという点でも大変充実しました。休日も一緒に外食に誘ってもらったり、ボウリングに行ったりと、いつも暖かく接して頂きました。

アメリカで研究生活を始めて印象に残ったことが数多くあります。まず、実験を始める前には薬品の取扱や消火方法についてのテストをいくつも受けなければならず、事故防止や安全管理に厳しかったと思います。また、学生の研究活動時間は、おおよそ朝9時~夕方5時で、日が沈む頃にはほとんどのメンバーが帰っていました。最初はなかなか夕方に研究の区切りをつけて終えることに慣れなかったのですが、実際に試してみると、朝早くから実験やデスクワークが捗り、夜遅く残るよりも能率が良かったことから、健全な生活を保つことも研究に必要であると改めて感じました。他には、毎週水曜日の午後3時から学部全体でブレイクタイムがあり、学生や先生が一斉にエントランス付近でティータイムを楽しみます。単に休憩という意味だけでなく、他の研究室と交流を深められる素晴らしい催しであると思いました。クリスマスにはFord先生宅のパーティに招かれ、グループの皆で奥様による本場のターキーを含む様々な料理や、ホワイト・エレファントというプレゼント交換ゲームも楽しみ、アメリカのクリスマスを満喫しました。

この留学を通して、幾つものかけがえのない知識や経験が得られたことを大変嬉しく思います。修了まで残り少なくなりましたが、コースの教育体制にも掲げられている「先端研究分野を徹底的に探求」を達成すべく、今後も邁進していく所存でございます。最後になりましたが、この場を借りて、Ford先生、正岡先生、分子研大学院係や総研大学務課の皆様に心より厚く御礼申し上げます。以上、思いつくままに綴りましたが、これにて筆を擱かせていただきます。ありがとうございました。

中村 豪さんの略歴

なかむら・ごう
2010年岡山大学理学部化学科卒業、2012年同大学院自然科学研究科博士前期課程修了後、総研大に3年次編入。生命・錯体分子科学研究領域の正岡グループにて、金属錯体による二酸化炭素の多電子還元反応について研究を行っている。