分子科学研究所

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大学院教育

総研大生コラム - 井本 翔さんの体験記

先端研究指向コースを活用した海外短期留学

井本 翔さん
機能分子科学専攻4年(執筆当時)
分子研レターズ 65号 掲載(2012年3月)

2011年の夏にMITのTokmakoff教授、また秋にアメリカエネルギー省管轄Pacific Northwest国立研究所のXantheas教授のグループにぞれぞれ40日間ほど滞在し共同研究してきましたので、その報告をさせていただきます。事の始まりは2010年の秋頃に私の指導教官である斉藤先生(理論計算分子科学研究領域)から「総研大のコース選択で先端研究指向コースを選択すると海外で数ヶ月研究するための資金援助をしてくれます。せっかくの機会なので、それを活用して海外を経験してみては?」と言われたことでした。その時点ではまだまだ先のことのように感じ、「へー、そうなんですか。」程度で聞いていました。

 それ以降、このことは完全に忘れていたのですが、年末にふと思い出して実際に滞在する期間とそのための準備期間などを逆算していくと、コース選択が正式に決定する2011年4月になってから準備するのでは遅い事に気づきました。そして斉藤先生や大学院係の方と相談して、正式決定の前から少しずつ準備していくことになりました。

 それからは論文を読む際にも滞在先を探すために「この研究室に滞在したら、どのようなことが学べるだろうか?」などと考えるようになりました。斉藤先生からは「せっかくのチャンスだから、既に井本君がコネクションを持ってるグループに滞在するのではなく、新しいコネクションを作るつもりで行ってきたら?できればアメリカに行って、アメリカの研究の雰囲気とかを感じてきたら?」とだけ言われたため、行き先はかなり自由に選ばせて頂きました。興味のあるグループが複数あったために色々迷いましたが、最終的には分光実験を専門としているMITのTokmakoff教授のグループに滞在することに決めました。斉藤先生とTokmakoff教授が友人なので話が通り易いだろうという理由もありましたが、Tokmakoff教授を選んだ一番の理由は実験グループの雰囲気を少しでも味わってみたかったからです。

 またMIT滞在を決めた同時期に日本学術振興会の関係で来日していたXantheas教授が分子研を訪問され、そのホストを斉藤先生がしていた関係もあり、Xantheas先生がPacific Northwest国立研究所に来てみないかと誘ってくださいました。私とXantheas教授の研究分野は近いためPacific Northwest国立研究所滞在は興味があったのですが、Google Mapに表示されるPacific Northwest国立研究所が信じられないくらい田舎にあるため長期滞在は少し躊躇してしまいました。しかし、オークリッジ国立研究所やローレンス・バークレー国立研究所と同じアメリカエネルギー省管轄の研究所に行ける機会などそうそう無いため、覚悟を決めて行くことにしました。

 このMIT滞在が初めての一人の海外長期滞在だったため出発前は不安な気持ちでいっぱいでしたが、出発前に斉藤先生に「Tokmakoff教授はすごく親切だから、何も心配することはない。」と励まされました。そして実際にTokmakoff教授に会ってみると想像以上に親切な先生で、Tokmakoffグループの学生・ポスドクの方達もすごく親切で普段の生活の様々なことを助けていただきました。研究面に関してもあえて実験系のグループに滞在したことで予想以上の刺激を受けられました。理論計算が専門の私は実験の論文を読んでも実際に何が行われているのか全く理解できないのですが、実験装置を目の前にしてその詳細を解説してもらうと理解が進みました。また、MITの建物の廊下には様々な研究を紹介したポスターが掲示されていました。それらの多くは初めて見る研究内容であり廊下のポスターを見ているだけでも有意義な時間が過ごせました。研究に関してもさることながら、MITでの一番の思い出は分子研に来て以来初めて大勢の学生と毎日一緒に昼食を食べたことです。彼らが何の話題で盛り上がっているかはほとんど分かりませんでしたが、それでも同年代と一緒に行動するのはとても楽しかったです。

 一方、Pacific Northwest国立研究所ではアメリカの研究環境の規模を実感させられました。研究所は砂漠の中に建設されており、研究所の敷地にのみ緑の木々と芝生が生い茂る光景だけでも圧巻なのですが、それ以上にスーパーコンピューターの規模の大きさと使いやすさに驚かされました。Pacific Northwest国立研究所で私が使わせて頂いたマシンは2011年のスーパーコンピューターランキングにおいてTop10に入る最新型であるにも関わらず多くの研究者がそれを用いて大規模計算を行っており、私も申請すれば数日で利用出来るようになりました。誰もが簡単に最新型を利用出来るという点で、アメリカのスーパーコンピューター事情は日本よりも進んでいると思いました。また、Pacific Northwest国立研究所の理論系の研究部門は各グループの規模が小さく教授だけのグループも存在しましたが、教授自身が積極的に研究されていました。さらに二週間に一度くらいの頻度でセミナーが行われており、毎回教授陣たちが白熱した議論を繰り広げるのが印象的でした。私も帰国直前にセミナーを行いすごい勢いで質問攻めに合いましたが、セミナー終了後には色々な先生から誉めて頂きとても嬉しかったです。

 同じアメリカでも雰囲気が全く異なるMITとPacific Northwest国立研究所にて研究できたことは、私にとって大きな経験となりました。これからコース選択を行う総研大の学生の方も積極的にこのシステムを活用することをお勧めします。最後に今回の滞在でお世話になったMITのTokmakoff教授とKrupaさんを始めとするTokmakoffグループのみなさま、Pacific Northwest国立研究所のXantheas教授、大学院係の方と斉藤先生にこの場を借りてお礼を申し上げます。

井本 翔さんの略歴

いもと・しょう
名古屋大学理学部化学科修士課程修了後、 平成22年度に総研大3年次編入。 理論・計算分子科学研究領域・斉藤グループにて凝縮相中における分子のダイナミクスについて研究を行っている