分子科学研究所

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大学院教育

総研大生コラム - 伊東 貴宏さんの体験記

先端研究指向コースを活用した海外短期留学

伊東 貴宏さん
構造分子科学専攻4年(執筆当時)
分子研レターズ 74号 掲載(2016年9月)
Davies 研究室のメンバーとの集合写真。左前から写真に写っている2人目が筆者、右前から3人目が Davies 教授。

平成28年1月4日からおよそ3ヵ月間、米国エモリー大学のHuw M. L. Davies教授のもとで共同研究させていただきました。Davies教授はRh(II)パドルホイール型錯体について触媒設計から触媒機構の解明まで長年にわたって精力的に研究を行われており、私の研究活動において得られたRh(II)パドルホイール型錯体をユニットとする超分子構造体の反応性を調査するのに最も適した研究室であると考えたため、ここに行くことを決めました。航前に、Davies教授とはエモリー大学のビデオ会議システムを通して共同研究の内容に関してディスカッションを行いました。また、留学の詳細な日程や現地滞在で必要な手続き等について、avies教授や秘書の方、大学の事務の方と自分で連絡を取りながら準備を進めました。宿泊先に関しては、先方に探してもらってはいたのですが、一年以上滞在しない場合は賃貸アパートを契約するのは難しいらしく、最終的にエモリー大学近辺のホテルを利用することにしました。エモリー大学はジョージア州アトランタに位置しており、そこでの気温は岡崎と変わらないか、少し寒いくらいで雨はほとんど降らず、比較的住みやすい環境でした。出発前は分子研とエモリー大学間には何のつながりもないだろうと思っていたのですが、かつて分子研にて理論化学・計算化学の発展に多大な功績を残されました諸熊奎治先生も、分子研でご活躍後、エモリー大学で教鞭を執られていたことを後になって知り驚きました。

アメリカに留学する際には渡航ビザが必要だったのですが、私の場合は準備が結構ぎりぎりになってしまいました。留学直前にハワイでの国際学会があり、ハワイに行く前にビザが発行されたパスポートが手元にないと、計画した日に留学に向けて出発できないという状況でしたが何とか間に合いました。今後留学を考えている方は早め早めに準備を始められることを強くおすすめします。航空券も予約が早ければ早いほど安く購入することができます。

アメリカでのライフスタイルは、海外留学直前に参加したハワイでの国際学会で何となくイメージできていたため、面食らうようなことはほとんどありませんでした。ただ、英語に関してはネイティブの方の話すスピードがノンネイティブの方の比ではなく、ついていくのが大変でした。自分の知っている話題なら断片的に聞き取るだけでも大体話していることは理解できるのですが、知らない話題を出されるとお手上げで、何度か聞き直してようやく少し理解できるといった感じでした。こうして最初は言語の壁を感じてはいたものの、毎日接しているうちに2~3週間も経つと耳が慣れて来ました。帰国する頃には、当初は聞き取れなかったスーパーマーケットやファストフード店の店員さんが言っていることが聞き取れるようになり、3ヵ月という短い期間でも確かな成長を実感しました。

滞在先での研究生活は日本にいるときと大差はなく、朝から晩まで実験に明け暮れましたが、実験前には安全講習を受ける必要があったり、有機合成には欠かせない核磁気共鳴装置(NMR)も研修期間中は一日に使用できる時間数と時間帯が定められていたりと、安全管理や装置の取り扱いに厳しい印象を受けました。研究室では、学生やポスドクの方々との交流を通して、彼らから様々なノウハウを学びました。時には、彼らが私に対して「こういう化合物が生成物としてできているとしたら、NMRのピークはどんな感じで出ると思う?」などといった質問をされることもあり、私をお客さんとしてではなく、研究室の一員として接してもらえたことが嬉しかったです。また、私からも新入生に対して機器の使い方を教えてあげることで、少しはギブアンドテイクの関係になれたのかなと思います。他には、滞在先の研究室はCCHF(Center for Selective C-H Functionalization)とうC-H結合の選択的官能基化に向けた共同研究ネットワークに参入しており、週に一度、いくつかの研究室とビデオ会議を通してディスカッションを行っていました。新しいことを始めるには、このように分野の異なる専門家の意見が聞ける機会を積極的に設けることが研究の発展には重要だと感じました。また、二か月に一回程度、月末に化学科全体での懇親会のようなものがあり、他の研究室と交流を深められる場は、私たちのところで言うハッピーアワーに近いものを感じました。

アメリカでの3か月間はあっというまでしたが、辛かったことも、楽しかったことも、全部含めて私にとって貴重な経験となりました。総研大のコース別教育プログラムは少数精鋭な環境であるからこそできる他大学院にはないカリキュラムだと思います。留学する機会は社会人になってしまうとなかなか得られないものだと思いますので、時間に比較的余裕のある学生のうちに積極的に挑戦することをお勧めします。日本の研究レベルは世界的に見ても非常に高いとは思いますが、国外に出て世界トップレベルの研究環境を肌で感じることは大いに刺激になると思います。最後に、今回の短期留学で大変お世話になりましたDavies教授を始めDavies研究室の皆様、大学院係や総研大基盤総括係の皆様、正岡先生、そして私の家族にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

伊東 貴宏さんの略歴

いとう たかひろ
名古屋大学理学部化学科を卒業後、平成24年に総合研究大学院大学物理科学研究科構造分子科学専攻へ入学。生命・錯体分子科学研究領域正岡グループにて、錯体触媒ユニットを用いた物質変換反応場の開拓に関する研究に取り組んでいる。