分子科学研究所

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大学院教育

総研大生コラム - 山口 拓真さんの体験記

海外学生派遣事業を利用した海外短期留学

山口 拓真さん
構造分子科学専攻4年(執筆当時)
分子研レターズ 76号 掲載(2017年9月)
Fritz 研究室のメンバーとの集合写真。 左から 1 人目が筆者

平成28年5月からおよそ3か月間、総研大の海外学生派遣事業を利用し、ドイツのフリードリヒ・シラー大学イエナ(以下、イエナ大学)のTorsten Fritz教授の研究室で共同研究をさせていただきました。Fritz教授は有機半導体材料分子の薄膜構造について走査型トンネル顕微鏡装置、低速電子線回折装置など用いて長年にわたって詳細に研究しています。私の研究である有機半導体材料分子の電子状態を理解するうえで試料の薄膜構造を知ることは必要不可欠であったため、この研究室を選びました。Fritz 教授の研究室と私が所属している解良研究室では長年にわたって共同研究しており、年に一度はイエナ大学を訪ねさせていただいていたのでFritz 教授とはもともと面識がありました。Fritz 教授は友達のように接することができるほどとても気さくな方で、そのお人柄も留学先にこの研究室を選んだ理由の一つです。
 イエナ大学は1558 年に設立された長い歴史を持つ大学であり、テューリンゲン州のイエナという街にあります。イエナは典型的な大学都市であり、街の各所に大学の施設が点在しています。そのため授業を受けるために街の端から端まで移動しなければならないことがあるそうです。大学都市ということもあり、イエナには歴史あるドイツレストランをはじめギリシャやトルコ、中華、韓国、ベトナム、日本などの世界各国のレストランがあり食事は飽きることなく楽しむことができました。気候は岡崎に比べて少し涼しく、晴天の日でも屋外でのホットコーヒーを楽しめるほどカラッと乾燥しており、非常に過ごしやすい環境でした。多くのひとがレストラン店内ではなく、外の席で食事やコーヒーを楽しんでおり、それは日本とドイツの文化の違いを感じる印象的な光景の一つです。
 イエナ大学での研究生活は朝から晩まで実験生活と思いきや、すべての学生が9 時ごろに来て17 時ごろに帰宅するのでかなり規則正しく健康的に過ごせました。全員がこんなに早く帰宅してしまうことには日本との差を感じ、かなり驚きました。しかしこれは彼らが働いていないということではありません。Fritz 教授の研究室が保有する装置は実験室の外、例えばオフィスや自宅から遠隔操作で実験できるようになっており、帰宅してからも実験ができる環境でした。すでに結婚し子供もいる学生も何人かおり、そのような人には非常にいい環境だと思いました。日本ではコンピュータウィルス対策やハッキングなどのセキュリティの観点から外部からのネットワーク接続は敬遠されがちですが、このような環境を日本にももっと積極的に導入していくべきだと感じました。
 海外生活での一番の不安はやはりコミュニケーションでした。研究室のメンバーは全員英語が堪能であったので、コミュニケーションはドイツ語ではなく英語でした。毎週行うミーティングも私のために英語で行っていただいていましたが、TOEIC500点台であった私は英語を話すこと自体にかなりの抵抗があり、当初は顔を赤くしながら受け答えをしていました。しかし1 週間も過ごしてるうちに抵抗はなくなり、なんとか自分の言いたいことを伝えようと思うようになりました。その後からの成長は早く、三か月後には大体の会話が聞き取れるようになりました。英語の上達には英語しか話せない環境に身を置くことが一番の近道だということを実感しました。
 研究室のメンバーとは研究生活だけではなく、プライベートでも交流を深めることができました。実験の終わりにバーに飲みに行ったり、土日には近くに観光に連れていってくれたりしました。当時、日本で大流行していたスマホゲームのポケモンGO はドイツでも流行っており、日本文化がドイツに浸透していることを嬉しく思ったのを覚えています。ポケモンGO をきっかけに仲良くなった友達もいました。また研究室主催のカヌーツアーやサマーキャンプにも参加させていただきました。夏合宿では大自然のなかで25kmのハイキングやBBQ を楽しみました。このような交流も英語上達やその後の研究生活に非常に役立ちました。海外留学する後輩たちには、研究に没頭するだけでなくプライベートでも積極的に交流してほしいと思います。
 ドイツでの三か月間はつらいことも楽しいこともたくさんありましたが、私にとって非常に貴重な経験となりました。この経験のおかげで日本を外から見ることできました。日本の良いところ、悪いところをたくさん見つけることができたと思います。総研大では海外学生派遣事業をはじめ、学生を支援するプログラムが用意されています。学生が少ないと困ることもありますが、少ないからこそいろいろなことに挑戦できる、そんな環境が総研大、分子研にあると思います。とくに海外への留学経験は社会に出てからでは自由にできることではありません。不安もあるでしょうが、ぜひ学生のうちに一度は経験してほしいと思います。最後に今回の留学でお世話になりましたFritz 教授をはじめFritz 研究室の皆さま、大学院係や総研大国際交流係の皆さま、解良先生、上羽先生、そして私の研究を支えてくれているすべての皆さまに心から御礼申し上げます。

山口 拓真さんの略歴

やまぐち たくま
2014年千葉大学工学部ナノサイエンス学科卒業、2016年同大学院融合科学研究科博士前期課程修了後、総研大に3年次編入。光分子科学研究領域の解良グループにて有機半導体材料分子の電子状態について光電子分光装置を用いた研究を行っている。