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分子研での7年を振り返る

岡村 将也さん
構造分子科学専攻OB(執筆当時)
分子研レターズ 77号 掲載(2018年3月)

いま周囲を見渡すと非常に恵まれた環境で研究ができていることを幸せに思う。岡崎に来た当初は想像できなかった光景である。この地で過ごした7 年の間には楽しいことも大変なこともたくさんあったが、分子研に来て本当に良かったと感じている。このコラムでは、私が大学院生として分子研に来てから現在までを振り返って記していこうと思う。
 私は学部4 年のとき九州大学の錯体化学研究室に所属しており、そこで助教をされていた正岡先生と出会った。当時から、正岡先生は研究ビジョンを熱く語り、研究が面白くなるよういつもアドバイスをくださった。そんな正岡先生の姿を尊敬し、博士過程にぜひ進みたいと思うようになっていった。そして、正岡先生が分子研に異動するということを聞き、不安もあったが新しいことに挑戦するチャンスだと前向きに考え、分子研に一緒についていくことを決めた。
 分子研に移る際に特に気がかりだったことは学生についてである。分子研で学生が研究を行うには総合研究大学院大学(総研大)に入学するのだが、総研大は学部をもたない大学院大学のため学生が少ないと聞いていた。私は先輩や後輩とディスカッションをしながら研究を進めていくことが好きだったので、これから学生が入ってきてくれるのか、それが不安だった。しかし、その懸念はすぐに払拭される。翌年度には総研大生として2 人が正岡グループに加わり、その後も途切れることなく入ってきてくれた。近年では、常に10 人ぐらいの学生と一緒に研究ができており、とても幸せなことだと思っている。また、実際に分子研に来てみると、他のグループと交流する機会が多く、寂しいと感じることはなかった。特に、櫻井英博先生と永田央先生のグループと合同で行っていたゼミでは、いつも盛んなディスカッションが行われ、有意義なときを過ごすことが出来た。
 分子研には体験入学やオープンキャンパスという、他大学の学生に私達のことを紹介できる貴重な機会がある。見学に来てくれた人は、おおむね分子研に興味を持ってもらえているようで、実際にこれがきっかけとなって入学してくれたメンバーもいる。私も入学前は分子研のことをよく知らなかったが、実際に学生として5 年間を過ごし、その恩恵を実感した。まず、分子研ではリサーチアシスタント(RA)制度による経済的なサポートを1 年次から受けられる。それが本当にありがたかった。そして、授業や学生実験補助などの義務が少なく自由度が高いので、腰を据えて研究に当たることができた。さらに、総研大には他研究室や海外の研究室で一定期間の研究を行うためのプログラムがあるので、私はそれを積極的に利用し異分野の研究を行う貴重な経験をさせてもらった。
 この分子研という恵まれた環境が大きな研究成果にも結びついた。2015 年12 月、私達の研究が英国科学誌Natureに掲載されることが決まった。研究を初めてからとても長い道のりだったが、多くの方々のサポートを頂いて掲載までたどり着くことができた。その始まりは分子研に来て1 年目にさかのぼる。
 分子研の正岡グループは2011 年に正岡先生と総研大生である私、特別訪問研究員として学生が2 人、技術支援員が2 人の合計6 人でスタートした。まずは、広い居室・実験室の掃除から始め、実験装置や器具、試薬等の置く場所を決めて整理するという、研究室の立ち上げ作業に追われた。その後、助教の近藤さんが着任され、一通りの研究ができる体制が整ったとき、正岡先生が「何か新しい研究をやろう!」と提案くださった。私も賛同し、技術支援員の久我さんに実験を手伝ってもらい、いくつか面白そうな研究テーマをやってみることになった。初めはなかなか研究の芽が開かなったが、ある鉄錯体の電気化学測定を行っていたところ、驚くほど大きな電流値が観測された。この結果は鉄錯体が非常に優れた触媒活性を有していることを示唆するもので、このときの私は冷静でありながらも静かな興奮を覚えた。このような感覚は研究者の醍醐味であり、私にとっては一生忘れられない経験となった。
 その後、正岡先生と近藤さんと共にディスカッションを重ね、鉄錯体の触媒機能の高さを証明することに奮闘した。その間、分子研の充実した分析機器も活用させて頂き、目的の実験のほとんどは不自由なく行うことができた。そして2014年にNatureに投稿する。返ってきた査読のコメントでは、レフェリーやエディターに研究の面白さを認めて頂いた一方で、私達の主張を裏付けるためには実験データが十分ではないと指摘された。そこで追加実験を行い再び投稿したところ、さらにいくつかの実験を要求され、最終的には最初の投稿から1 年8 カ月にわたる査読・改訂を経て受理されることが決まった。受理されたときは最初の発見から既に5年が経過し、嬉しいというよりも努力がようやく報われたことにほっとする気持ちだった。再三の改訂作業では苦しいときもあったが、正岡先生や近藤さん、共同研究者の方々のチームで粘り強く議論を重ねていく中で、あきらめずに最後までやり遂げることができた。
 2016 年からは名古屋大学理学部の特任助教となり、現在も分子研で特別訪問研究員として正岡先生のもとで研究を続けている。これまでの7 年はあっという間だったが、とても実りある時間を過ごすことができた。改めて分子研に来て良かったと感じている。
 最後に、現在の自分があるのは、正岡先生、近藤さんをはじめとしてこれまでにお世話になった方々のおかげである。この場を借りて皆様に厚く御礼申し上げたい。

岡村 将也さんの略歴

おかむらまさや
2011年九州大学理学部化学科卒業後、総合研究大学院大学 物理科学研究科5年一貫制博士課程に入学し、分子科学研究所、生命・錯体分子科学研究領域の正岡グループに所属。2016 年同大学にて博士(理学)を取得。同年4 月より現職。 主な研究は金属錯体を用いた酸素発生触媒の開発。