分子科学研究所

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大学院教育

総研大生コラム - 市位 駿さんの体験記

研究三昧、釣り三昧の旅 in ボストン

市位 駿さん
機能分子科学専攻4年(執筆当時)
分子研レターズ 79号 掲載(2019年3月)
筆者とストライパー(シマスズキ)@Castle Island

この度、2018年9月から約3ヶ月間、マサチューセッツ工科大学(MIT)のSwager研究室に留学させていただきました。MITはアメリカ東海岸マサチューセッツ州ボストンの郊外に位置しており、すぐ近くのハーバード大学と双璧をなす全米屈指の名門校です。私は予てから材料化学を学びたいと考えており、どうせならその分野の権威であるTimothy M. Swager教授のもとへ行こうと思い、留学先として選ばせていただきました。

Swager研究室はまさにビッグラボといった印象で、世界各国から集まった40人近くの学生・ポスドク・客員研究員で構成されています。やはり、それ相応に研究分野も多岐に渡り、機能性分子やポリマーの合成から、グラフェン等の材料表面の化学修飾やコロイドの作成、そしてそれらを用いたセンサーや分割材料の開発まで一貫して行われていました。留学当初はその広すぎる知識と聞き取り困難なネイティブイングリッシュについていけるのかと、不安を覚えましたが、ひと月も経てば徐々に慣れてきました。月日を重ねるうちに、今まで見慣れなかった図表や数式が馴染んできて、少しばかりSwager研究室の研究内容が理解できるようになった頃には、その溢れんばかりのクリエイティビティと応用の幅を感じ取り気分が高揚しました。

研究室での生活は朝8~9時に始まり、夕方の6時頃には終わるため大変ヘルシーな生活を送ることができました。ラボでの研究が終わった後に、MIT内にあるバーに繰り出したり、月一で開催されるビール&ピザパーティー等に参加し、周囲とのコミュニケーションを深めました。留学中に、日本の大学との違いについて印象に残ったことが二つあります。ひとつは、極めて活発に議論が交わされることです。セミナーでは発表中にも関わらず頻繁に話を止め、ポスドク・学生といった身分に関係なく皆が質問や意見を投げかけます。このような姿勢が一流の研究を生み出すのだと身をもって痛感させられました。次に、安全管理の徹底です。デスクと実験室は完全に隔離されており、どのような試薬もデスクには絶対に持ち込むことができません。また、実験室にいる間は常に保護メガネ、ラボコート、保護手袋の着用が義務付けられており、ドアノブごとに素手もしくは保護手袋どちらで触れるかまで詳細に決められておりました。これらを守ることは当たり前のように思えますが、確実にこなすのは案外難しいものです。実際に、私は何度か忘れてしまいお叱りをいただきました。

一方で、ボストンでの私生活も存分に楽しむことができました。私は大の釣り好きでして、海外の魚を釣り上げるということが留学における第二の目標でした。日本からモバイルロッド(釣竿)とリール(糸巻き機)を持ち込み、現地の釣具屋さんでルアー等その他の装備を揃えました。アメリカで釣りをする際にはライセンスの取得が義務付けられており、また魚の種類によって持ち帰ってよいサイズや数が詳細に決められておりました。とりあえず釣具屋の店主に聞いたオススメの釣り場を毎週末のように通い詰めました。結果としましては、満足のいく釣果を上げることができました。アメリカ東海岸原産のストライプドバス(和名:シマスズキ)を筆頭にアオスズキ、日本のものより見た目が凶悪なハガツオ、タイセイヨウサバ等が釣れました。特に、写真を掲載している80cmオーバーのストライパーは忘れられないメモリアルフィッシュとなること間違いなしです。

釣り以外にもボストンには多くのアクティビティがありました。まず、町歩きをしているだけで楽しいです。ボストンはアメリカで最も歴史の古い都市の一つで、イギリス統治時代の名残を色濃く残しています。ボストンは2015 年にGame of the Year を受賞した名作Fallout4 の舞台にもなっており、実際にそれをプレイしていた私はFallout4に登場するロケーションを生で見ることができて大興奮しておりました。また、Fenway Park でのレッドソックスの試合観戦やワールドシリーズ優勝パレードへの参加。ボストンの有名な地ビールSamuel Adams やHarpoon のブルワリーツアー。名産品のロブスターやクラムチャウダーの味などたくさんの良い経験をさせていただきました。加えて、ボストンからはバスで容易に(片道4時間、計40ドル程度)ニューヨークへアクセスできるため、弾丸ツアーを組んだりもしました。

さらにアメリカ滞在中、現地の人々の温かみに触れることもできました。たった3ヶ月間の滞在にも関わらず、特にお世話していただいたポスドクの方が主催で、帰国直前にお別れホームパーティーを開いてくださいました。食事やお酒を嗜みながらゲームを楽しみました。Cards Against Humanity という、皮肉や下ネタを含む2つの文章を組み合わせて面白おかしくするアメリカで定番の人権侵害カードゲームで圧倒的勝利を得たことはここだけの話です。また、寄せ書きやMITグッズ、そしてMITロゴ入りルアーをプレゼントしていただきました。特にこのルアーは、先述のストライパーを釣り上げたものと同じ種類で、釣果を聞いていたポスドクの方がオーダーメイドしてくださったものです。頂いた際には涙が溢れそうになりました。一生の宝物です。

アメリカでの留学は、食が合わなかったり物価が高かったり、苦労することもたくさんありましたが、存分に研究も釣りも楽しむことができました。留学を考えている後輩の方々にも、素晴らしい支援をいただける総研大のシステムを活用して、ぜひ海外での研究と趣味を楽しんでいただけたらと思います。

最後に、今回の滞在で大変お世話になりましたSwage教授及びグループメンバーの皆様、総研大大学院係の皆様、留学を推薦していただいた魚住先生、そして関わっていただいたすべての方に心より御礼申し上げます。

市位 駿さんの略歴

いちい しゅん
専攻科機能分子科学専攻に入学。2017 年より日本学術振興会特別研究員(DC1)。分子科学研究所錯体触媒研究部門魚住研究室にて、超高活性ピンサー型錯体触媒の開発に取り組んでいる。