お知らせ
2005/04/26
プレスリリース
概要
自然科学研究機構分子科学研究所(愛知県岡崎市)の平等拓範助教授は、浜松ホトニクス(株)(静岡県北浜市)の酒井博研究員、曽根明弘研究員、菅博文研究主幹と共同して手のひらサイズの超小型メガワット級パルスレーザーを開発した。さらに、これを励起源とし(独)理化学研究所の進藤賢治研究員、林伸一郎研究員、川瀬晃道独立主幹研究員とともに光パラメトリック発生型テラヘルツ光源の開発に世界で初めて成功した。小型化する事により特性が従来の600倍向上した。
研究の背景
テラヘルツ波とは電波と光波の間、すなわちミリ波と赤外線の間に位置し、電波と光波の両方の性質を兼ね備えている特殊な光/電磁波。この光は紙やプラスチックなど、可視域でいわゆる不透明材料を透過するだけでなく被爆等もなく人体に安全であるためX線に代わる新たな透視イメージング法として注目されている。これまでの研究で、発生装置そのものに関しては小型になったものの、励起には大型で不安定なレーザーが必要とされたため、その普及が妨げられていた。
一方で、固体レーザー小型化の究極であるマイクロチップレーザーを中心としたマイクロ・フォトニクス分野での研究実績を有する分子科学研究所の平等拓範助教授は、受動QスイッチによるNd3+(ネオジウム)イオン添加Y3Al5O12(以降Nd:YAG)マイクロチップレーザーのジャイアントパルス化研究を進めてきた。
研究発表の要点
最近、分子研平等助教授は、浜松ホトニクス(株)(静岡県北浜市)の酒井博研究員、曽根明弘研究員、菅博文研究主任と共同して共振器長20mmの手のひらサイズレーザーから、480ピコ秒(ピコ秒とは10-12秒)で、1.7メガワットの高出力をほぼ理論限界の高輝度特性(理想値から0.05倍ズレているだけ)で達成した。加えてマイクロチップレーザーの短共振器効果により単一周波数発振を果たし、さらに非線形光学波長変換に要求される直線偏光を受動Qスイッチ用の可飽和吸収体による偏光制御で実現した。非線形光学で得られる出力は入射基本波強度の二乗に比例するため高輝度光源ほど有利になる。
今回開発したQスイッチマイクロチップレーザーでは、その強度が一般に数10kWだったものが1.7MWにまで高まったため可視光、紫外光を高効率に発生させる事が可能となった。これまでに、(独)理化学研究所の進藤賢治研究員、林伸一郎研究員、川瀬晃道独立主幹研究員との共同研究により超小型の光パラメトリック発生システムの構築を行ったところ、小型・軽量化が果たされただけでなく、発振閾値も従来の1/100に低減でき、さらに破壊閾値に関しても6倍以上になるなど、特性が大幅に改善され、高性能テラヘルツ波光源の実用化に目処をつけた。
研究成果の社会的意義
テラヘルツ波は、電波のように紙・プラスチック・ビニール・セラミックス・木材・脂肪・粉体・乾燥食品など、様々な物質を透過すると共に、光波のようにレンズやミラーで空間を自在に取り回す事が容易であるため、新たなイメージング光源としての期待も大きい。さらに、ビタミン・糖・医薬品・農薬・禁止薬物など、様々な試薬品に固有の吸収スペクトル(指紋スペクトル)がテラヘルツ波でも存在するため、さらに応用可能性が広がりつつある。今回のような小型高性能な光源は、テラヘルツ波透視イメージングを利用した空港での爆弾や麻薬の検出だけでなく試薬、農作物の品質管理や医療分野での応用展開が期待される。
さらに、生体高分子や結合力が弱い物質では、テラヘルツ波で分子構造の変化を生ずることも予測され、新たな分子科学のフロンティアを拡げるものと期待される。
お問合せ
連絡先:レーザー関連のお問合せ
自然科学研究機構 分子科学研究所
〒444-8585 岡崎市明大寺町西郷中38
Tel : 0564-55-7246Fax: 0564-55-7246
用語説明
マイクロチップレーザー
媒質長が1mm程度以下の固体レーザーを指す.ウェハー加工が可能なので量産化に適しており,体積としても数mm3と励起用の半導体レーザー(LD)とほぼ同じ寸法であるため,LDパッケージに同梱することが可能となる.違いは,エタロンそのものがレーザー共振器であるため,発振周波数の単一化や,モードホップフリーの広帯域波長可変動作が容易となることにある.また,曲率加工を施さなくとも励起に付随した熱レンズ効果で安定共振器が形成されるため,TEM00の基本横モードが得られやすく,周波数・強度雑音が低くなることも特長である.さらに,非線形光学波長変換素子やQスイッチ素子と複合させることにより,LD単体では不可能だった多機能化も図られている.すなわち,マイクロチップレーザーはLDの空間的,スペクトル的特性を改善するコヒーレンスコンバーターであり,さらには時間的特性や発振波長域を拡大できる特殊光学系と位置づけられる.
テラヘルツ(THz)波
テラヘルツ(THz)波は、電波と光波の間、すなわちミリ波と赤外線の間に位置し、電波と光波の両方の性質を兼ね備えている特殊な光/電磁波である。テラヘルツ波は、電波のように紙・プラスチック・ビニール・セラミックス・木材・脂肪・粉体・乾燥食品など、様々な物質を透過すると共に、光波のようにレンズやミラーで空間を自在に取り回す事が容易であるため、新たなイメージング光源としての期待も大きい。さらに、ビタミン・糖・医薬品・農薬・禁止薬物など、様々な試薬品に固有の吸収スペクトル(指紋スペクトル)がテラヘルツ波でも存在するため、さらに応用可能性が広がりつつある。