分子科学研究所

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2005/05/09

受賞

山田陽一助手に日本薬学会奨励賞

分子スケールナノサイエンスセンター助手である山田陽一博士が、平成17年3月に平成17年度日本薬学会奨励賞を受賞した。同賞は、薬学の基礎および応用に関し,独創的な研究業績をあげつつあり,薬学の将来を担うことが期待される満38歳未満の研究者に授与されるものであり、受賞の研究対象になったのは「新しい固相触媒の開発とその有機合成反応への展開」である。


山田博士は、平成6年に東京大学薬学部を卒業後、東京大学大学院薬学系研究科へ進学し平成11年に博士号を取得した。帝京大学薬学部助手、米国スクリプス研究所リサーチアソシエートを経て、平成15年10月より分子科学研究所助手に着任し、現在に至る。この間、平成11年に有機合成化学協会研究企画賞、平成12年には井上研究奨励賞を受賞している。


山田博士は、新たな概念を基盤とした固相触媒の創製が学術的にも実用的観点からも重要であると考え、活性が高く、再利用可能な実用性のある新しいタイプの固相触媒の創製を研究課題としてきた。触媒活性部位となる金属分子と非架橋型両親媒性高分子配位子との自己集合により架橋型不溶性超分子錯体を生成させることにより、固相触媒の開発に成功した。その業績は、次のようなものが挙げられる。


1. リンタングステン酸、四級アンモニウム塩を有する両親媒性高分子ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドから新規不溶性超分子錯体PWAAの創製に成功した。PWAAは固相触媒として過酸化水素水中でのアリルアルコールのエポキシ化、アミン、スルフィドの酸化に対し高い触媒活性を有し,再利用可能なことが明らかとなった。


2. ホスフィン配位子を有する非架橋型高分子とパラジウムより新規不溶性超分子錯体PdASを調製した。PdASを固相触媒として0.00005モル当量を用いた水中での鈴木宮浦反応では,10回の触媒の再利用に耐え,様々な基質に適用可能となった。この触媒は最高100万回以上触媒回転を実現し、反応溶媒として水、水-有機溶媒混合溶媒,無水有機溶媒いずれを用いても効率的に触媒反応が進行した。PdASは現在、東京化成工業にて市販されている。


3. PdASの改良型である触媒PdAS-Vの調製に成功し,この触媒を用いた溝呂木-ヘック反応の開発を行った。この場合も触媒の再利用,様々な基質へ適用され,最高100万回以上の触媒回転を実現した。この触媒も商品化の予定である。


4. この触媒構築法を不斉触媒系に適用し、ビナフトール骨格を有する非架橋型高分子とチタンからなる触媒TiSSを開発した。TiSSは不斉カルボニルエン反応における再利用可能な固相触媒であることを見出した。


現在、山田博士は現在、固相触媒の開発から超分子科学への展開を目指しており、次のステップへの推進に努力している。今後の進展に期待したい。

(魚住泰広 記)

山田陽一助手

山田 陽一 助手