分子科学研究所

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2005/07/11

研究成果

ス−パ−キャパシタの巨大容量と作動原理をミクロレベルで解明

理論分子科学研究系
平田グループ(谷村あゆみ、Andriy Kovalenko、平田文男)

 

最近、電池に代わる新しい電気エネルギー貯蔵デバイスとして、「ス-パ-キャパシタ」あるいは「電気二重層キャパシタ」が注目を集めている。ス-パ-キャパシタは(1)通常のコンデンサの約100万倍の巨大容量を持つ、(2)急速充放電が可能、(3)サイクル寿命が長い、(4)大電流充放電が可能、(5)重金属を用いておらず環境に優しい、といった特長をもつ。これらの特長を活かし、自動車のハイブリッド電源、携帯電話のメモリバックアップ電源、発電電力の貯蔵の分野で応用されており、今後その応用先は増えていくと考えられている。

ス-パ-キャパシタは無数のナノ細孔をもつ炭素電極(例、活性炭)と電解質溶液(例、食塩水)から成り、電解質溶液のイオンが炭素細孔内に物理的に吸脱着することによって電気(または、エネルギー)を蓄える仕組みである。ス-パ-キャパシタの巨大容量(電気を貯える能力)に炭素細孔の表面積(サイズ分布)が関わっていることは容易に想像できるが、必ずしもそれだけで決まるわけではない。イオンの大きさや電荷など分子(ミクロ)レベルでの性質が大きく関わってくる。(例えば、細孔径が小さくなれば細孔表面積は大きくなるが、それがあまり小さいとイオンが入れない。)このため、ス-パ-キャパシタの設計には従来型コンデンサ-で使われたマクロな静電気学ではなく、分子レベルの理論が必要になっている。

本研究では液体の統計力学理論(REPLICA-RISM)に基づいて、ス-パ-キャパシタが従来型のコンデンサーに比べて約100万倍の容量をもつことを示すと同時にその作動原理を解明することに成功した。ス-パ-キャパシタの巨大容量の要因として、炭素電極の大きな表面積だけでなく、炭素電極内部でのイオン間の電気的な反発力による化学ポテンシャルの増加が関わっていることが明らかになった。

この研究を行った動機は何ですか?

平田グループでは数年前にランダムに分布した細孔内の溶液を取り扱う理論的方法(REPLICA-RISM理論)を提案していました。この理論のいわば応用として、環境にやさしいエネルギー源として話題になっているスーパーキャパシタを研究してみようということになったのです。

この研究の重要さや新しいところを専門外の人に説明してくださいますか?

この研究の重要な点は統計力学という理論を使ってスーパーキャパシタが、何故、巨大な容量を示すのか、さらに、その作動原理を分子レベルで初めて明らかにした点です。これをハト時計の作動原理に例えてみましょう。

鎖を引いて「おもり」を持ち上げると、その(重力)ポテンシャルエネルギーとしてエネルギーが貯えられます。ハト時計はこのエネルギーを消費して動くのです。ス-パ-キャパシタの場合、例えば陽極側では、充電によって陰イオンが細孔内に引き寄せられます。(「おもり」を引き上げることに対応)このイオンの化学ポテンシャルとしてエネルギ-が貯えられ、これが自動車などが動かす力の源になります。

 

ところで、何故、巨大な電気が貯まるのかというと、細孔内では水の密度が低くなるため同じ符号のイオン間の電気的な反発力が大きくなり、化学ポテンシャルが大きくなります。(これは、ハト時計の場合は「おもり」の重さを大きくしたことに対応します。)このような細孔がたくさんあるため、たくさんの電気を貯えることができるのです。

 

今後この研究はどのように発展すると考えられますか?

これまで、スーパーキャパシタの材料開発はもっぱら思考錯誤実験に頼っていました。しかしながら、炭素細孔分布は炭素素材とその処理法によって変わりますし、電解質溶液もたくさん種類があり、その組み合わせは無数にあります。それらを実験していくと膨大なコストがかかります。今回、電気容量の決定因子が分子レベルで明らかになったことによって、これまで思考錯誤に頼っていた材料と容量の関係を予見することが可能となり、スーパーキャパシタの発展に大きく寄与することが期待されます。

 

用語解説

統計力学:分子間に働く力など分子レベルの情報から電気容量などのマクロな情報を求める理論的方法

化学ポテンシャル:物質の構造や状態の変化の方向を決める熱力学量。地上の石が(重量)ポテンシャルエネルギーの低い方へ移動するように、例えば、化学反応は化学ポテンシャルが低くなる方向へ進む。

 

論文名

A. Tanimura, A. Kovalenko, F. Hirata, Chem. Phys. Lett., 378, 638 (2003).