分子科学研究所

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2006/03/08

受賞

松本吉泰教授に日本化学会学術賞

分子スケールナノサイエンスセンターの松本吉泰教授が、「表面光化学における超高速ダイナミックス」に関する業績で日本化学会学術賞を受賞されました。心よりお祝いを申し上げます。 
非局在化した電子状態をもつ固体表面は、均一系とは異なるユニークな反応場を提供します。固体表面における光化学は、学術的にも光触媒などの応用面からも極めて重要な研究課題です。松本先生は、さまざまな時間分解非線形分光法を開発・導入しながら、動的な視点からこの課題に取り組み、固体表面における電子や原子核の超高速ダイナミックスを表面化学における新しい分野として確立することに成功しました。この実績が評価され、今回の受賞につながりました。 
主な業績として以下のものが挙げられます。 
(1)光による吸着種の電子状態励起メカニズムの解明。金属表面に吸着した分子の光励起過程では、金属表面の光励起状態を介した間接励起が支配的であると考えられていました。これに対して、松本先生は直線偏光を用いた光吸収断面積の精密測定によって、吸着分子自体が直接光を吸収し励起されることを初めて実証しました。また、金属表面に吸着した飽和炭化水素に紫外光を照射すると容易に炭素-水素結合が解離することを見出し、その反応機構を明らかにしました。 
(2)表面での電子移動ダイナミックスの解明。金属表面での光反応では、励起状態を介した金属表面と吸着種の間の電子移動が本質的な役割を果たしています。松本先生は、フェムト秒時間分解2光子光電子分光法を用いて、吸着分子の非占有電子状態や界面での電子移動のダイナミックスを明らかにしました。この研究を通して、有機半導体デバイスの電子輸送効率を向上するためには有機薄膜から金属への逆電子移動を抑えることが重要であることが明らかになりました。 
(3)光励起に伴う表面での原子核ダイナミックスの実時間観測。アルカリ金属原子が金属表面に吸着した系に対して、時間分解表面第二高調波発生分光を適用し、超短パルス励起によって吸着原子と表面の間の振動モードが位相を揃えて励起されることを発見しました。さらに、励起光パルスを整形することによって特定の振動モードを選択的に励起することに成功しました。この結果は、光によって表面化学反応が制御できる可能性を示しており、今後の展開が期待されます。 
以上のように、松本先生は、新しい方法論を開拓しながら、これを表面光化学のダイナミックスが関与する諸問題に対して適用し、数々の独創的な成果を挙げました。これらの研究業績は、表面科学はもとより、ナノサイエンス・光科学など周辺分野に大きなインパクトを与えています。今後のさらなるご発展をお祈りし、お祝いの言葉とさせていただきます。 

(佃達哉 記)

 

<研究業績>
表面光化学における超高速ダイナミックス
(Ultrafast Dynamics in Surface Photochemistry)