分子科学研究所

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2006/12/26

アウトリーチ

第一回JSPSアジア研究教育拠点事業「物質・光・理論分子科学フロンティア」冬の学校 開催報告

JSPSアジア研究教育拠点事業物質・光・理論分子科学フロンティア第一回冬の学校は分子科学研究所(IMS)、中国科学院化学研究所(ICCAS)、韓国科学技術高等研究所(KAIST)、台湾中央研究院原子分子科学研究所(IAMS)の共催で、12月5日から9日にわたって、中国・北京の中国科学院化学研究所において行われた。今回の冬の学校は本拠点事業発足後の第一回目の会合にあたり、開校の挨拶を兼ねて、中村所長をはじめ4研究所の各所長から、各々の研究所に関する紹介が行われた。次いでIMSから小川教授、岡崎教授、菱川助教授が参加し、他にKAISTから2名、IAMSから3名、ICCASから3名の講師を迎えて、若手の参加者向けに計11件の講義が行われた。また参加した若手研究者によるポスター発表と、ポスターの内容を紹介する3分間の口頭発表が、IMSから17名、KAISTから8名、IAMSから5名、ICCASから36名が参加して行われ、参加者が93名になった。当コアプログラムは、日中韓台の4拠点研究所を中心に、国際交流を活発にし、アジアに分子科学の一大潮流を起こせるような人材を養成することを目的としている。この観点から、冬の学校は、学生を中心とした若手研究者に分子科学の現状を伝え、もって新分野を創出するための契機と位置づけられる。さらに4国間の若手研究者に積極的に交流する場を与え、将来的にアジアにおいて活発な人的交流、情報交流を担える人材の育成も目標の一環である。

 

本冬の学校は、「物質、光、理論科学の最前線」をテーマに行われた。物質科学に関しては、小川教授が「分子エレクトロニクスのための有機ナノ構造の構築」というタイトルで、ナノテクノロジーの基礎から、点接触電荷イメージング原子間力顕微鏡(PCI-AFM)を用いたカーボンナノチューブやポルフィリンによるナノ物性という、同グループの最新の研究成果までを講義された。またIAMSのWang教授は「強制自己集積化により構築された単分散ナノ構造体の整列」という演題で、シリコンなどの基板上にGa原子などを自己集積化して形成された2次元パターンに関して、多数のSTM像などを駆使して解説された。さらにKAISTのChoi教授は「センサーのためのナノ構造」と題して、金微粒子や量子ドットを使ったバイオセンサーなどの応用に関して、内外の最新の研究成果を門外漢にも理解しやすいように講義された。またICCASのLiu教授は、「カーボンナノチューブの大量合成と電子デバイス」というタイトルで、窒素などを含んだ新たなカーボンナノチューブの合成、カーボンナノチューブの膜などへの集積化、さらにはそれらを用いた電子デバイスの製造に関して講演された。

 

光科学に関しては、菱川助教授が「強光子場中の分子」という演題で、強光子場中の分子の振る舞いや、高強度のレーザーによる化学反応の制御に関して、美しいスライドを使って講義された。またICCASのYang教授が「有機光物理と高圧効果」と題して、初めに光科学の重要性に関して基礎から丁寧に解説された後、高圧下の光反応などに関して、ご自身の研究成果を含めて講演された。

 

理論科学に関しては、岡崎教授が「分子動力計算-古典系から量子ダイナミクスまで」というタイトルで、ミセルやタンパク、また水素移動などの複雑な系に関して分子の動きを理論的に解析する方法について講義された。またKAISTのLee教授が「確率論的力学系の理論的研究および数値解析」というタイトルで、確率論的な振る舞いをするバイオナノマシンなどへの応用が可能な、理論的解析に関して、ノイズなどを含めた数値解析に基づき解説された。またIAMSのLi教授は「分散力の理論およびその結晶表面での分子集積化への応用」と題して、結晶表面上に自己集積化する分子の理論的考察を、ファン・デル・ワールス相互作用や分散力というキーワードを駆使して講演された。さらにICCASのShuai教授は「高電子移動度を持つ有機機能性材料設計の理論的アプローチ」というタイトルで、導電性有機物や導電性結晶に関して理論計算に基づく分子設計の指針を解説された。またIAMSのYang教授は「隣接アミノ酸の相互作用」というタイトルで、分子動力場計算をポリペプチドに応用し、その結果を電子移動などの実験事実と比較、考察した内容を講義された。

 

講義に引き続いて、若手研究者から自己紹介代わりに3分間のポスター紹介が行われた。その後、2時間に渡って、67件のポスター発表が行われた。ポスターの内容は、光科学、レーザー科学、有機合成、錯体化学、ナノ科学、材料科学、生体分子、理論科学、高分子化学、超分子科学、電気化学と、非常に多岐に及んでおり、自分の専門外の分野に関して知見を深める契機になったと考えられる。全体として若手研究者同士の活発な議論が行われていた印象である。

 

アンケートの集計によると、分野の異なる参加者が多かったために、講義ではもう少し基礎的な部分の解説を望む意見が多かった。また他国間の学生同士のコミュニケーション不足を指摘する旨も多数見られた。この点に関しては、他国間の学生を、あえて同部屋に宿泊させるなどの工夫を含めて、今後の検討を要する。が、全体として多くの参加者が講義の内容にも満足し、今回の冬の学校の趣旨にも賛同して、来年以降2回目の開催を希望していた。

(江 東林 記)