お知らせ
2007/02/27
受賞
安全かつ環境調和的な条件下で高効率,高選択的に望みとする化合物を合成する工程こそが次世代に於ける理想の化学工程と考えられる。再利用可能な不均一触媒を用いた水中で化学合成は理想化学合成へのアプローチである。
分子科学研究所・魚住泰広教授は遷移金属触媒研究の第一人者として高分子固定化触媒による水中での精密有機分子変換工程の開発に取り組み,広範囲の化学変換工程を環境調和型プロセスに転換し,さらにはアルコール類の触媒的水中酸素酸化や触媒的水中不斉合成による化学結合形成に成功し環境調和型化学合成研究に大きく貢献した。
魚住氏は両親媒性高分子であるポリスチレン-ポリエチレングリコール共重合体(PS -PEG)にパラジウム錯体,ロジウム錯体,4級アンモニウム塩,パラジウムあるいは白金のナノ金属粒子を担持することで水中不均一条件下で機能する化学合成触媒を創製した。これによりハロアレン類のカルボニル化(Pd触媒),ヘック反応(Pd触媒),アリル位置換反応(辻反応)(Pd触媒),鈴木-宮浦カップリング(Pd触媒),薗頭カップリング(Pd触媒),ワッカー反応(Pd触媒),環化異性化反応(Pd触媒),アルキン環化三量化(Rh触媒),アルケンのヒドロホルミル化(Rh触媒),エノン類の宮浦マイケル反応(Rh触媒),マイケル付加反応(アンモニウム塩)などが水中不 均一条件下で達成されている。また,高分子固定化と水中での利用を考慮し独自に設 計・開発したPS-PEG担持型光学活性イミダゾインドールホスフィン-パラジウム錯体を用いることで,最高99%の立体選択性を伴いつつ触媒的アリル位置換反応が達成されている。
アルコール類の酸化反応はカルボニル化合物を与える基幹的な化学変換反応であるが,未だに実用レベルでの触媒反応が確立されていない未成熟な反応系である。水中で駆動する不均一系酸素酸化触媒工程が実現されるならば,環境調和性に富み安全安価な理想のアルコール酸化となりうるであろう。最近,本受賞者はパラジウムあるいは白金のナノ金属粒子をPS-PEG担体に担持させた触媒を用いることで,水中で常圧酸素ガスによるアルコール酸化を達成している。ナノ金属粒子が持つ広い接触界面に由来する高い反応性と両親媒性高分子による水中反応性により,活性なアリル型,ベンジル型アルコールのみならず通常不活性な脂肪族アルコールの水中酸素酸化が触媒される。
有機分子の化学変換は有機溶剤中で実施されることが従来の化学合成の常識であった。両親媒性高分子を反応場とし,有機分子の疎水性相互作用を駆動力とすることで,水中かつ不均一条件下での精密化学変換を実現した本研究成果は基礎科学的に独創性に富むとともに,環境調和への配慮が要請される次世代の有機化学合成の可能性を示すものである。本研究成果の実用性やポテンシャルの高さから,現在,PS-PEG担持パラジウム錯体触媒は複数の国際的試薬メーカーから市販されている。
関連リンク