分子科学研究所

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2007/11/29

研究成果

相対論的電子ビームを用いたコヒーレント高調波発生(加藤(政)グループ)

高エネルギー電子が強磁場中で放出するシンクロトロン光は、電波からX線という広大な波長領域で、指向性に優れた高強度の光として様々な研究分野で活用されています。このシンクロトロン光がそのライバルともいえるレーザー光に比べて最も劣っているのは、コヒーレントではない、つまり波としての位相がそろっていない、という点です。通常のシンクロトロン光は図1に示すように位相のそろっていない波束の集合体になっています。我々のグループでは、極端紫外光研究施設の電子蓄積リングUVSOR-IIを用いてコヒーレントなシンクロトロン光を作り出す研究を行っています。今回は、その中のひとつ、コヒーレント高調波発生について紹介します。

 

図1.電子群からの放射;(上段)通常(インコヒーレント)放射、(中段)波長程度の範囲に集った電子群からのコヒーレント放射、(下段)波長間隔で整列した電子群からのコヒーレント放射

 

 

 

アンジュレータと呼ばれる装置では、多数の磁石をN極とS極が交互に入れ替わるように並べられています。この中を高速の電子パルスとレーザーパルスを重ねて同じ方向に走らせると、電子とレーザー場の間でエネルギー交換が起こります。その結果、パルス中の各電子のエネルギーが光の波長の周期で変調を受けます。エネルギーが異なるとアンジュレータ中を進む速度が異なりますので、エネルギー変調は密度変調へと変わります(図2)。このような電子パルスからは、密度変調の周期と同じ波長のコヒーレントな光が放射されます。また、非常に鋭い密度変調が形成された場合には、その整数分の1の波長でもコヒーレントな光を放射します(図3)。これが、コヒーレント高調波発生です。

 

図2.アンジュレータ中でのレーザー場との相互作用による電子群の整列

 

図3.光の波長間隔で整列した電子群からのコヒーレント高調波発生

 

我々は、チタンサファイアレーザーをUVSOR-II加速器に打ち込み、電子パルスと相互作用させることで、三倍高調波の発生を確認しました。その強度が電子パルス強度の二乗に比例するという、コヒーレント放射特有の振る舞いを示すことも確かめることができました(図4)。今回は実験装置の制約で確認できませんでしたが、更に高次の真空紫外域のコヒーレント光も生成されているはずです。

 

図4.コヒーレント高調波強度の電子パルス強度依存性
(横軸は電子パルス強度、縦軸はコヒーレント高調波光強度。)

 

この研究は、電子蓄積リングによる真空紫外・軟X線領域のコヒーレントシンクロトロン光生成法の基礎研究であるとともに、直線加速器を使ったX線自由電子レーザーの高品質化に関する基礎研究でもあります。なお、この研究は分子科学研究所の国際共同研究としてSoleil放射光施設(仏)のグループと共同で行われました。その成果はフランス側の大学院生Marie Labatさんによって論文にまとめられ、学術雑誌にハイライトペーパーとして掲載されました。

発表論文

雑誌:The European Physical Journal D Vol. 44, No. 1 (2007) 187-200 (Highlighted Paper)

題目:Coherent Harmonic Generation at UVSOR-II Storage Ring

著者:M. Labat, M. Hosaka, A. Mochihashi, M. Shimada, M. Katoh, G. Lambert, T. Hara, Y. Takashima, M. E. Couprie