分子科学研究所

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2008/02/13

研究成果

窒素分子の3重結合を切断する金属錯体(川口グループ)

窒素はすべての生物に必須の元素であり、窒素分子(N2)として空気成分の78%を占め、最も豊富で入手しやすい元素です。しかし、窒素分子は極めて安定であり、分解しにくく、他の分子と反応しにくいことが知られています(不活性分子)。そのため、窒素を利用するには、窒素分子を他の反応しやすい分子、物質へと変換することが必要となります(窒素固定)。

 

現在、窒素固定は以下の2つの行程で行われています。1つめは自然界で行なわれているもので、マメ科植物(クローバー、ソラマメなど)の根粒に共生する根粒菌やラン藻類が常温・常圧で窒素分子をアンモニア(NH3)へと変換し、これを窒素源として生命活動に必要な物質をつくりだしています。2つめは工業的な方法であり、500ºC、1000気圧という高温・高圧の条件で水素分子(H2)と窒素分子(N2)を反応させることによりアンモニアを合成し (ハーバー・ボッシュ法)、医薬品や工業製品の原料として 利用しています。しかし、窒素固定はこれらの2つに限られており、窒素分子の新しい反応性を開拓し、無尽蔵に存在する窒素分子を自由自在に取り扱う手法を確立することは、化学者が挑戦すべき課題のひとつです。

 

上に挙げた2つの窒素固定では、ある種の金属をふくむ化合物が窒素分子を活性化し、アンモニアへの変換反応を促進しています。その反応過程で、金属に水素原子が結合した化学種(金属ヒドリド)が重要な役割を担っていると考えられています。このことに着目し、私たちの研究グループでは、ヒドリド錯体による窒素分子の新しい活性化反応に取り組んでいます。最近、2つの金属(ニオブ:5族遷移金属)を4つのヒドリドが架橋した金属錯体が窒素分子と反応することを見いだしました(図参照)。これは、ヒドリド錯体を用いて窒素分子のN-N3重結合を切断した世界で初めての例です。今後、反応を詳細に調べることにより、新しい窒素固定化反応への道を拓くと期待しています。

 

この研究成果はAngewandte Chemie誌の「Very Important Papers」に選ばれました。

 

 

図 窒素分子と反応するヒドリド錯体(tBu, tert-ブチル基; Nb, ニオブ)。窒素分子が錯体の金属に作用するとヒドリドが水素分子として抜けるとともに、N-N3重結合の切断が進行する。

発表論文

雑誌:Angewandte Chemie International Edition, Vol. 46 (2007) 8778-8781.
題目:Dinitrogen Cleavage by a Diniobium Tetrahydride Complex: Formation of a Nitride and Its Conversion into Imide Species
著者:F. Akagi, T. Matsuo, H. Kawaguchi