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2008/10/15

受賞

「化学エネルギーと電気エネルギーの相互変換を目指した錯体触媒の設計と合成」(田中晃二教授)

生命・錯体分子科学研究領域・錯体物性研究部門の田中晃二教授が、2008年9月に金沢で行われた第58回錯体化学討論会において、「化学エネルギーと電気エネルギーの相互変換を目指した錯体触媒の設計と合成」という題目で錯体化学会賞を受賞致しました。

 

田中教授の錯体化学分野における業績は1970年代に始まり非常に多岐にわたりますが、初期の重要なものとして、鉄硫黄タンパク質のモデル錯体を含む種々のカルコゲニド金属錯体の研究、およびルテニウム錯体を用いた電気化学的二酸化炭素還元の詳細研究が知られています。前者はハイレベルな合成と合理的な解釈で世界の注目を集め、後者は二酸化炭素からメタノールに至るすべての酸化状態で錯体を単離・構造解析した例として現在でも唯一の優れた成果です。

 

1990年に分子研に着任して以降は、受賞題目となった「化学エネルギーと電気エネルギーの相互変換」を中心テーマとして、非常に独創的なアイデアのもとに種々の注目すべき成果を上げました。第一に、ルテニウム・キノン・水の三元系錯体が脱プロトン化によって、ルテニウム・セミキノン・オキシラジカル錯体を生成することを世界で初めて見いだしました。これはキノンの電子受容性を配位子として巧みに用いることで金属上に特異な電子状態を発現させたもので、錯体化学に全く未踏の世界を開いたと言えます。さらにこの化学を発展させ、水の4電子酸化について従来の1000倍以上の活性を持つルテニウム二核錯体の開発に成功しました。第二に、同じくルテニウム・キノン錯体を用いて、従来にない低い過電圧でメタノールを電解酸化する触媒反応を見いだしました。電解酸化の過電圧は反応の活性化エネルギーを反映しており、これが十分に低ければメタノールから電気エネルギーを効率よく取り出すことができます。この錯体も特異な電子状態を持っており、高い反応活性の一因となっています。第三に、1,5-または 1,8-ナフチリジンを配位子に用いて、プロトン1つと電子2つの出し入れを可逆的に行うルテニウム錯体を開発しました。この反応は、生体内で酸化還元補酵素として使われているNADHの反応と形式的に等価であり、温和な条件で有機化合物の酸化還元を実現し得る興味深いものです。また、ルテニウムの光励起状態を巧みに用いて、1つの錯体に最大6個までの電子を蓄積できることを示しました。上記の二酸化炭素還元反応と合わせて見ると、光や電気を用いた二酸化炭素の固定化に道を開く重要な成果と言えます。

(永田 央 記)

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