お知らせ
2008/10/20
研究成果
共有結合性有機構造体はナノサイズの細孔を有する結晶性高分子である。細孔サイズが重合反応により一義的に規定され、ガス吸着・貯蔵のための新しい多孔性材料として注目されている。分子科学研究所物質分子科学領域の江東林准教授のグループは共有結合性有機構造体が提供する結晶構造に着目し、拡張π共役系分子を構成ユニットとして用いることで、世界に先駆けて『光・電子機能性共有結合性有機構造体』の創出に成功した。
拡張π共役系分子であるトリフェニレンとピレンをモノマーとして用い、重縮合反応により新規なπ電子系共有結合性有機構造体を合成した。この場合、グラフェンのようなシート状ポリマーを形成し、π-πスタックにより厚さが約100ナノ、長さが数ミクロンという薄いベルト状となることが分かった。紫外線や可視光を用いて構成ユニットであるトリフェニレンやピレンを励起すると、いずれも強い青色蛍光を放すことが分かった。励起スペクトル測定からこの有機構造体のなかでは、2つの構成ユニット間でエネルギーの受け渡しが行なわれることが示唆された。また、励起子はある特定のユニットに局在化することなく、フレーム内で高速移動していることが分かった。すなわち、共有結合性有機構造体は紫外から可視光まで幅広い領域の光を捕集し、青い蛍光に効率的に変換できることを実証した。さらに、このようなπ共役系共有結合性有機構造体は電気電導を示すことが分かった。ヨウ素をドーピングすることにより電気伝導が著しく増大することから、P型半導体であることを明らかにした。
『光・電子機能性共有結合性有機構造体』の初めての例として注目されている。本論文はAngew. Chem. Int. Ed.のVIP(参考文献1)に選ばれて、また、アメリカ化学会C&EN誌にハイライトされている(参考文献2)。
参考文献
(1)Shun Wan, Jia Guo, Jangbae Kim, Hyotcherl Ihee, Donglin Jiang, “A Belt-Shaped, Blue Luminescent and Semiconducting Covalent Organic Framework”,Angew. Chem. Int. Ed., DOI: 10.1002/anie.200803826 (VIP).
(2)Highlighted by Chemical & Engineering News. Jyllian N. Kemsley, “Covalent Conducting Belts”, C & EN, October 13, 2008 Volume 86, Number 41 P. 29.