分子科学研究所

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2009/12/09

プレスリリース

1000 億分の1秒以内で、右もしくは左回りにそろって分子を回転させることに成功(大島グループ)

分子科学研究所の北野健太大学院生(総研大)、長谷川宗良助教、大島康裕教授は、通常はランダムに回転している気体中の分子について、精密に制御した極短パルスレーザー光を利用して、1000億分の1秒以内で右回り・左回りの回転方向をそろえることに成功した。

固体結晶中では分子は規則正しく向きをそろえて並んでいるが、液体や気体の状態では分子はおのおの勝手に移動や回転をしており、その方向もランダムである。極微の存在である分子を1つ1つ観察するのは極めて困難であり、通常は多数まとめて観測する必要がある。方向がバラバラでは分子に関する多くの情報が平均化のために失われてしまうので、運動をコントロールして方向をそろえる必要がある。このようなコントロールは電場・磁場もしくは光を用いて行うことができる。しかし、実際には、回転軸の方向やスピードを光でそろえることは実現されているが、右回りと左回りを区別できなかったり、回転のタイミングがそろえられないという欠点があった。

研究チームは、10兆分の1秒の時間幅を持つレーザーパルスを適切な時間間隔で2発続けて照射すると、右もしくは左回りに分子がそろって回転する、回転方向が整列した状態を作り出せることを理論的に明らかにした。さらに、ベンゼンを対象とした実験を行ない、理論的予測とほぼ完全に一致する結果を得て、分子がそろって回転していることを確証した。今回の新規な方法では、2つのパルスの間隔は分子の回転周期(1000億分の1秒)程度であり、この時間内で回転方向の整列が完了する。そのために、分子の回転のタイミングをきれいにそろえることができる。また、パルス間隔を変えるだけで回転方向の整列の程度を変化させ、さらに、右回りから左回りへと回転の向きを反転させることもできる。

回転方向、スピード、タイミングまでそろった分子の集団を作り出すことに成功したことは、超高速で運動する分子を「撮影」することへとつながる重要なステップであり、近い将来、「粒子であるとともに波としての性質を持つ」というミクロスケールに特有の物理法則に支配された分子の世界をありありと視覚化することが可能となると期待される。また、今回の回転整列法の原理は、ミクロな粒子の回転運動のすべてに適用でき、例えば、ナノ構造中での電子運動の制御へ応用すれば、全く新しい原理の超高速スイッチ・メモリーが開発できる可能性を秘めている。

この研究成果は、平成21年11月27日発行の米国物理学会誌フィジカル・レビュー・レターズに公開された。

■発表論文

雑 誌:Physical Review Letters 103 巻 (11月27日付) 論文番号223002
題 目:Ultrafast angular-momentum orientation by linearly polarized laser fields 
日本語訳:直線偏光レーザー場による超高速角運動量オリエンテーション 
著 者:K. Kitano(北野健太、総合研究大学院大学博士課程)H. Hasegawa(長谷川宗良、分子研助教)Y. Ohshima(大島康裕、分子研教授)

 

■研究サポート

本研究は、文部科学省 科学研究費補助金(課題番号18205005)、連携融合事業「エクストリームフォトニクス研究」、最先端の光の創成を目指したネットワーク研究プログラム「融合光新創生ネットワーク」の一環として行われた。

 

■本件に関するお問い合わせ先

大島 康裕(おおしま やすひろ) 
自然科学研究機構 分子科学研究所 光分子科学研究領域 光分子科学第一研究部門 分子制御レーザー研究開発センター(併任) 
Tel: 0564-55-7430 Fax: 0564-54-2254 E-mail: ohshima@ims.ac.jp