分子科学研究所

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2009/12/10

受賞

山根宏之助教に第14回日本放射光学会奨励賞

山根宏之助教(光分子科学研究領域)の「高度構造制御による有機薄膜・界面電子状態の精密実験」に対し、第14回日本放射光学会奨励賞の授与が決定しました。日本放射光学会では、放射光科学分野において優れた研究成果をあげた35歳未満の若手研究者の功績を称えるとともに、今後の更なる活躍を奨励するために、毎年3名以内で奨励賞が授与されます。このたび、平成21年度の受賞者として平成22年1月の日本放射光学会年会で受賞講演を行うことになりました。以下に受賞理由となったUVSOR施設における研究業績の概要を紹介しておきます。

薄型ディスプレイや照明などで実用域に達した有機EL素子を筆頭に、有機トランジスタや有機太陽電池などの有機デバイスの研究開発が急速に進展しており、これらのデバイス機能や物性の発現には、有機固体中や電極との接触界面における電子状態が重要な役割を担っています。しかし、一般的に言って、有機固体・界面は複雑で多岐な構造をとるため、ただ実験装置の性能を向上させるだけでは詳細な議論は困難です。

山根氏は、(i) 分子の並びを高度に規定した高品質な有機結晶膜を使うこと、(ii) 放射光の波長可変性を用いた広いエネルギー範囲での角度分解紫外光電子分光測定を精密に行うこと、が必須であることを指摘し、世界に先駆けて、分子間の弱いvan der Waals力のみによって形成されたエネルギーバンド分散関係を実測することに成功しました(図1)。この結果は有機デバイス中の電荷輸送機構の物性に密接に関連しており、弱い分子間相互作用系における電荷のバンド伝導は隣接分子間の相互作用のみを考慮した強束縛近似で説明できることを示しています。さらに山根氏は、放射光の高い直線偏光性を用いた有機/金属(電極)界面の研究において、有機-金属間の軌道混成に由来する電子準位分裂や基板を介した分子間相互作用の増大によるエネルギーバンド分散の発現など、重要な知見を得ることにも成功しています。

 (小杉信博 記)

 

 

図1:典型的な有機半導体として知られるペリレンテトラカルボン酸二無水物(PTCDA)の分子間エネルギーバンド分散関係