分子科学研究所

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2010/02/16

プレスリリース

タンパク質構造から血液凝固因子の細胞内輸送のしくみを解明(加藤晃一グループ)

[ 研究の背景]

出血した際に血液が固まるためには、血液凝固因子[注1]とよばれる多数の血液成分が連鎖的に反応することが必要です。血液凝固因子が欠乏すると血が固まりにくいという障害を引き起こします。先天的な第V 因子・第VIII 因子合併欠乏症[注2]ではMCFD2とERGIC-53[注3]という2種類のタンパク質をコードする遺伝子のいずれかに変異があること が知られていました。これらのタンパク質は、細胞の中でつくられた第V因子および第VIII因子を血液へと輸送する過程に関与していると考えられていましたが、どのような仕組みで働いているのかはこれまでわかっていませんでした。

 

[ 研究の成果]

私たちは、大型放射光施設を利用した立体構造解析により、MCFD2とERGIC-53の複合体の立体構造を明らかにしました。これまでに他の研究グループによりMCFD2およびERGIC-53の単独の立体構造は報告されていましたが、今回、両者の複合体の立体構造を明らかにすることにより、2つのタンパク質が相互作用している様子を原子のレベルでとらえることに成功しました。この結果、図1に示すように、MCFD2 はERGIC-53と結合することにより、あたかも手をひろげるようにその3次元構造が変形していることを突き止めました。つまり、2つのタンパク質は一体となることで協働して積み荷である第V 因子および第VIII 因子をつかまえて運んでいると考えらます(図2参照)。また、今回の成果として、第V 因子・第VIII因子合併欠乏症で報告されている変異は2つのタンパク質が相互作用することを妨げていることも明らかになりました。

 

[ この研究の社会的意義]

今回の成果は、先天性血液凝固因子障害という病気のメカニズムの理解を促すばかりでなく、血液凝固因子の輸送系を標的とする薬(例えば、血栓の原因となる血液凝固を抑える薬)の開発にも大きな手掛かりを与えます。

 

図1 ERGIC-53とMCFD2の複合体の3次元構造

図1 ERGIC-53とMCFD2の複合体の3次元構造

図2 血液凝固因子の輸送メカニズム

図2 血液凝固因子の輸送メカニズム

 

MCFD2 はERGIC-53と結合することによって変形し 血液凝固因子を捕まえるように変形する。これによって両者が協働して血液凝固因子を輸送する。

 

[用語解説]
・血液凝固因子[ 注1]:血液凝固のしくみに直接に関与するさまざまな因子の総称です。12個の血液凝固因子があり、ローマ数字I ~ XIII(VI は欠番)で表されます。
・先天性第V・第Ⅷ因子合併欠乏症[ 注2]:この病気の患者さんは、100万人あたりに1人の割合で世界中に存在します。 
・ERGIC-53[ 注3]:ERGIC-53は糖鎖と結合する細胞内レクチンです。血液凝固因子には多くの糖鎖が付いており、ERGIC-53は標的の糖鎖と結合し、MCFD2 はポリぺプチド鎖を認識することによって協働的にはたらいていると考えられます。なお、レクチンとは、糖タンパク質や糖脂質の糖の部分に結合するタンパク質の総称です。

 

■論文情報

Proceedings of the National Academy of Sciences USA(米国科学アカデミー紀要)、 2010 年2 月8 日のオンライ版に掲載

論文タイトル: 
"Structural basis for the cooperative interplay between the two causative gene products of combined factor V and factor VIII deficiency" (先天性第V・第Ⅷ因子合併欠乏症の原因遺伝子産物間の協働的相互作用の構造基盤)
著者: 
Miho Nishio、Yukiko Kamiya、Tsunehiro Mizushima、Soichi Wakatsuki、Hiroaki Sasakawa、Kazuo Yamamoto、Susumu Uchiyama、 Masanori Noda、Adam R. McKay、Kiichi Fukui、Hans-Peter Hauri、Koichi Kato

 

■研究グループ

本研究は、自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター/ 分子科学研究所、名古屋市立大学大学院薬学研究科、高エネルギー加速器研究機構など との共同研究により行われました。

 

■研究サポート

本研究は、科学研究費補助金(新学術領域研究)「揺らぎが機能を決める生命分子の科学」、科学技術振興機構・戦略的創造研究推進事業(CREST)等の サポートを受けて実施されました。

 

■本件に関するお問い合わせ先

加藤 晃一(かとう こういち) 
自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター/ 分子科学研究所 生命環境研究領域・生命分子研究部門 教授 
TEL: 0564-59-5225 FAX: 0564-59-5224 
E-mail: kkatonmr@ims.ac.jp(送信時には@を半角にしてください)