分子科学研究所

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2011/07/15

プレスリリース

蓄電用の新規多孔性材料の開拓に成功(江グループ)

自然科学研究機構分子科学研究所の江東林(ちゃん どんりん)准教授らの研究グループは、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の一環として、新規な蓄電用材料の開拓に成功しました。近年、次世代エネルギー貯蔵装置の一つとしてスーパーキャパシタという蓄電装置が注目されています。しかし、電気容量、エネルギー密度および出力密度がまだ低く、電極材料の革新による蓄電性能の向上が望まれていました。今回、研究グループは、従来用いられていた多孔性炭素材料の代わりに、新しく開発した共役多孔性高分子を用いることにより、電気容量を6倍向上させることに成功しました。これにより、エネルギー密度と出力密度も著しく向上することができました。この共役多孔性高分子は、電子が分子全体に広く広がった共役構造と巨大な表面積を可能にする多孔性を共に持ち合わせたものです。今回は、窒素原子を含んだヘキサアザトリフェニレンを用いてアザ縮環構造を導入したとしたことで、アザ縮環構造による電解質イオンとの相互作用を強め、また、多孔性材料のポア構造を制御してつくることにより、電気容量、エネルギー密度及び出力密度を著しく向上させ、高性能な電極材料の開拓に成功しました。この成果は、エネルギー問題の解決に欠かせない蓄電システムの構築に必須の電極材料を提供するものであり、革新的な技術向上に貢献することが期待されます。本成果は、定評あるドイツ化学会誌の英語版『Angewandte Chemie International Edition』のオンライン版にて近日公開される予定です。なお、本研究の成果は高い評価を受け、VIP(Very Important Papers)にも選ばれました(7月6日に概要のみオンライン公開)。

 

[研究の背景]

スーパーキャパシタ*1)は、電気二重層と呼ばれる固体と液体との界面に、正負の電荷が蓄えられることを利用したエネルギー蓄積・供給装置です。次世代のエネルギー貯蔵装置として様々な分野で利用することができることから、近年大いに注目されています。これまでに、電極材料として高い電気伝導性と大きな表面積を有する多孔性炭素材料が広く使われてきました。しかしながら、これらのスーパーキャパシタは電気容量、エネルギー密度及び出力密度が低く、電極材料の革新による蓄電性能の向上が切望されています。

分子科学研究所の江グループでは、電子が分子全体に広く広がった共役構造と巨大な表面積を可能にする多孔性を共に持ち合わせた平面状の共役多孔性高分子の合成と機能開拓を精力的に行っています。これらの共役多孔性高分子の中には、共役構造がもたらす性質や多孔性構造がもたらす性質のため、様々な機能性を持つものが多くあります*2)。

 

 

[研究の成果]

今回、研究グループは、共役多孔性高分子に窒素原子を含むヘキサアザトリフェニレンを用いて新規なアザ縮環構造を導入し、熔融の金属塩化物を反応媒体として用い、300〜500度下での縮合反応により合成しました。

アザ縮環構造による電解質イオンとの相互作用を強め、また、多孔性材料のポア構造を制御してつくることで、電気容量、エネルギー密度及び出力密度を著しく向上できることを解明し、革新的な電極材料の開拓に成功しました(図1)。

図1 アザ縮環構造を導入した新規な共役多孔性高分子のユニット構造

図1:アザ縮環構造を導入した新規な共役多孔性高分子のユニット構造 
図中、青は炭素原子、白は水素原子、紫は窒素原子を示します。
この分子は平面シート状構造をとり、電気を通すことができます。

 

アザ縮環構造を有する共役多孔性高分子は多くの窒素原子を内包しており、合成条件により、細孔サイズを約1ナノメトール(ナノは10億分の1)にコントロールしてつくることに成功しました。この縮環共役多孔性高分子は電気伝導性を示し、電極材料として適しています。実際、スーパーキャパシタの蓄電特性を検討したところ、電気容量がなんと1グラム当たり946ファラッド(ファラッドは静電容量の単位; F)という極めて大きな値を示しました。従来の炭素材料である活性炭やカーボンナノチューブ、グラフェンなどに比べて、電気容量を6倍にも向上することに成功しました。これによって、エネルギー密度と出力密度を著しく向上することができました。さらに、アザ縮環共役多孔性高分子は極めて速い充放電特性を持ち、短時間で充放電できる特徴を持ち合わせています。化学的に安定な縮環構造のため、何度も充放電することができます。1万回充放電を繰り返しても、電気容量の減衰は全く観察されず、極めて安定して長く使うことができることが分かりました。本成果は、共役多孔性高分子が縮環構造をもつことにより、優れた特性をもつようになることを示した初めての結果です。

 

[今後の展開及びこの研究の社会的意義]

蓄電技術はエネルギー問題の解決に欠かせないキーテクノロジーの一つです。特に、電極材料は中心的な役割を担っており、材料の開拓による蓄電性能の向上及び応用への展開が望まれています。今回の研究成果は、蓄電システムの構築に必須の電極材料を提供するものであり、革新的な技術向上に貢献することが期待されます。

 

用語解説

注1)スーパーキャパシタ:電気二重層と呼ばれる固体と液体との界面に、正負の電荷が蓄えられることを利用したエネルギー蓄積・供給デバイスであり、ウルトラキャパシタとも呼ぶ。電解液と電極からなるシンプルなデバイス構造で構成され、電池のように重金属を用いないので、環境への負荷が少ないだけでなく、資源枯渇の心配もない。内部抵抗が低いため、充放電時のエネルキー損失が少ない。また、電池では得られない瞬時大電力の提供が可能であり、電池のように爆発や失火を引き起こす危険性もない。 
注2) 機能性の共役多孔性高分子の例:江グループは、昨年、新規な光捕集アンテナ系の構築(Chen et al., J. Am. Chem. Soc., vol.132, 6742 (2010); Cover page)に成功し、続いて、新しい高効率触媒系の開拓(Chen et al., J. Am. Chem. Soc., vol.132, 9138 (2010), Chen et al., Adv. Mater., vol.23, DOI: 10.1002/adma.201100974 (2011))などに成功した。

 

■論文情報

掲載誌:Angewandte Chemie International Edition(ドイツ化学会誌の英語版;アンゲヴァンテ・ケミー・インターナショナル・エディション) 
論文タイトル:Supercapacitive Energy Storage and Electric Power Supply Using an Aza-Fused Conjugated Microporous Framework
(アザ縮環共役多孔性骨格によるスパキャパシティブーエネルギ貯蔵及び電気提供) 
著者:Yan Kou, Yanhong Xu, Zhaoqi Guo, Donglin Jiang
掲載日:8月12日付オンライン版掲載;DOI: 10.1002/anie.201103493
       ※この論文はVery Important Papers (VIP) 論文に選ばれました。

 

■研究グループ

本研究は、自然科学研究機構 分子科学研究所・江グループ(江 東林准教授)の研究により行われました。

 

■研究サポート

本研究は、科学研究費補助金(基盤研究B)、JST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「太陽光と光電変換機能」研究領域(研究総括:早瀬修二 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)における研究課題「シート状高分子を用いた光エネルギー変換材料の創製」(研究者:江 東林)の一環として行われました。

 

■研究に関するお問い合わせ先

江 東林(ちゃん どんりん) 
自然科学研究機構・分子科学研究所・分子機能研究部門 准教授 
TEL:0564-59-5520 
E-mail:jiang@ims.ac.jp(送信時には@を半角にしてください)
https://www.ims.ac.jp/research/group/jiang/