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2012/05/17

プレスリリース

大森賢治教授が2012年のフンボルト賞を受賞

120516.jpg光分子科学研究領域主幹の大森賢治教授に対して、2012年のフンボルト賞が授与されることが決定しました。フンボルト賞は、ドイツ政府が全額出資するアレキサンダー・フォン・フンボルト財団によって創設されました。自然科学から人文・社会科学に至る幅広い研究分野において、基本的な発見もしくは新しい理論や洞察によって分野を超えて多大なインパクトを与え、今後も最先端の学術的な成果を出し続けると期待される国際的に著名な研究者に対して授与されます。ドイツの最も栄誉ある学術賞であり、これまでに42名のフンボルト賞受賞者が後にノーベル賞を受賞しています。2012年6月にベルリンのシャルロッテンブルグ城で授賞式が執り行われるとともに、ドイツ大統領官邸ベルビュー宮殿において大統領主催のレセプションが開かれます。また、2013年3月にはバンベルグにおいてフンボルト賞受賞者によるシンポジウムが開催される予定です。大森教授にとっては、2009年のアメリカ物理学会フェロー表彰に続く国際的に権威ある表彰となりました。

今回の受賞は、大森教授によるアト秒時空量子エンジニアリングの先駆的開発が評価されたものです。量子の世界では物質は見方によって粒子になったり波になったりします。大森教授は、アト秒(アト=10-18)レベルで制御されたレーザー光の時間振動の情報を分子1個の中の電子や原子の波に転写することによって、それらが描く量子力学的な時空間模様をピコメートル(ピコ=10-12)・フェムト秒(フェムト=10-15)レベルの分解能で制御し加工することに成功しました。これはナノテクノロジーの千倍の精度を持つ史上最高精度の加工です。さらに、この技術を用いて、0.3ナノメートルの分子1個で世界最速レベルのスーパーコンピューターの千倍以上の速さで計算する分子コンピューターの開発に成功しました。大森教授のこれら一連の研究によって、超高速光技術を用いて量子力学の検証と量子テクノロジーの開発を行う新たな学術分野「アト秒時空量子エンジニアリング」が開拓されました。

フンボルト賞の受賞者は、ドイツ国内に研究拠点を設け、ドイツの研究者と緊密な共同研究を推進することが強く期待されています。大森教授は、ハイデルベルグ大学を拠点にして、同大学のMatthias Weidemüller教授らと共に、アト秒時空量子エンジニアリングの更なる深化に向けた研究を推進します。今後、アト秒時空量子エンジニアリングが、「物質の波としての側面と粒子としての側面がいかに共存しているのか?」多くの科学者や哲学者たちが苦悩したこの謎を解き明かすことが大いに期待されます。

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大峯 巌