お知らせ
2013/01/23
プレスリリース
自然科学研究機構分子科学研究所の江東林(ちゃん どんりん)准教授らの研究グループは、電子を与えるドナーと電子の受け手であるアクセプターからなる高分子を用いて、πカラム構造が周期的に繋がった接合システムを開拓し、超高速光誘起電子移動および長寿命電荷分離状態の実現に成功しました。
光を電気に変換するには、電子ドナーとアクセプターの界面において光励起で効率良くプラスとマイナスに電荷を分離し、その状態を長く保つことが重要です。しかし、いったんは分離した電荷は容易に会合し、電荷分離状態はすぐに失われてしまいます。理論的には、電子ドナーとアクセプターが電子移動可能な近い距離に位置し、かつそれぞれが独立した連続構造を形成しながら、接合していることが理想的です。
研究グループは、電子ドナーとしてフタロシアニン、また、アクセプターとしてナフタレンジイミドを用い、縮重合反応により、電子ドナー・アクセプターからなる二次元高分子を合成しました。この二次元高分子は、積層することにより、電子ドナーとアクセプターがそれぞれ上に来るように重なって、柱もしくは壁のようなπカラム構造を形成します。したがって、πカラムが周期的に繋がった接合システムを作り出すことができます。この周期的なπカラム接合システムは、超高速で電荷分離し、光吸収から電子移動、電荷分離までの諸過程を1.4 ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)で完了することができます。さらに、電子移動で生じたホールと電子は、ドナーとアクセプターのπカラム中を長距離移動することができ、10 マイクロ秒(10万分の1秒)という長寿命の電荷分離状態を保つことができます。今回の成果は、究極のπカラム接合構造を有する材料として、次世代太陽光発電システム開発への展開が期待できます。
本成果は、JSTの戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)の『太陽光と光電変換機能』研究領域における課題の一環として行われ、ドイツ化学会が発行する化学領域の学術的科学誌『Angewandte Chemie International Edition』に1月16日付け(オンライン版)に掲載され、インサイトカバーにハイライトされました。
光を電気に変換するには、電子ドナーとアクセプターの界面において電荷分離状態をつくり出すことがキーポイントです。いったん分離したプラスとマイナスの電荷は強い電気的引力のために容易に会合し、生じた電荷分離状態がすぐに消滅してしまいます。この電気的引力を打ち消すために、これまで、自己組織化や液晶など様々なアプローチが検討されてきましたが、周期的な分子構造をもたないため、デバイスへの展開には適していません。
分子科学研究所の江グループでは、二次元高分子の合成と機能開拓の研究を行っています。二次元高分子は、積層することによって一次元の微細な穴を有する多孔性有機構造体を形成します。これまでに、二次元高分子にπ電子系を導入することで、新しいπ電子系二次元高分子の合成を世界に先駆けて行ってきました。最近では、二次元高分子を用いて、光捕集機能、ホールや電子伝導機能、光伝導機能、ガス吸着機能などを見いだし、従来の高分子にはない特異な機能を開拓してきました。
研究グループは二次元高分子の構築に電子ドナーとしてフタロシアニン誘導体、電子アクセプターとしてナフタレンジイミドを用いて、縮重合反応により電子ドナーとアクセプターからなる二次元高分子を高収率で得ることができました(図1)。この二次元高分子は250から1100 ナノメーターまでの幅広い領域の太陽光を吸収することができます。
電子ドナーとアクセプターユニットが規則正しく連結し、四角形の細孔を形成しながら二次元高分子を形成しています。二次元高分子はさらに積層することにより、ドナーとアクセプターのカラム構造を形成しています。したがって、二次元平面内における周期構造は積層することによって縦方向に拡張され、ドナーとアクセプターの二相が連続して周期的に繋がった究極の接合システムをつくり出しています(図2)。
電子ドナーからアクセプターへの光誘起電子移動反応を引き起こすには、ドナーとアクセプターを数ナノメートルという非常に近い距離に置く必要があります。この二次元高分子では、ドナーとアクセプターのカラム間では必ず接合界面ができ、電荷分離を効率よく引き起こすと共に、電荷分離状態を長く保つ分子の仕組みが出来上がっています。
図1. 電子ドナーとアクセプターからなる二次元高分子の基本構造(赤はドナーとなるフタロシアニン、青はアクセプターとなるナフタレンジイミド)
図2. 周期的なπカラム接合構造及び電荷分離メカニズム
研究グループは、種々の時間分解測定手法を用いてその電荷分離過程を解明しました。その結果、電荷分離は超高速で起こり、光吸収から電子移動、電荷分離までの諸過程は1.4ピコ秒で完了することが分かりました。電子移動で生じたホールと電子はドナーとアクセプターのカラムを長距離移動することができ、溶液中では10 マイクロ秒という長寿命の電荷分離状態を維持することができました。また、固体状態でも効率的に電荷分離することができ、1.8 マイクロ秒という長い寿命を示しました。
今回合成した二次元高分子では、電子ドナーとアクセプターは隣接しており、光励起電子移動を引き起こせる空間距離に配置されています。これに対して、電子ドナーのみからなる二次元高分子や秩序構造を持たないドナーとアクセプターの混合系では電荷分離は示しませんでした。この結果は、電子ドナーとアクセプターを二次元高分子という特異な分子構造で制御することにより、電荷分離が起きるドナー・アクセプター界面の面積を最大にし、最大限の光電変換を起こせるような周期構造のデザインが可能になったことを実験的に示すものです。
今回開拓された周期的なπカラム接合構造は、超高速電荷分離を可能にし、かつ長寿命の電荷分離状態を実現することができました。ナノメートルオーダーで接合構造が完全に制御されたデバイスは、次世代光電変換システム開拓の中核をなすと考えられ、現在検討しています。
掲載誌 : Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル : Charge Dynamics in A Donor-Acceptor Covalent Organic Framework with Periodically Ordered Bicontinuous Heterojunctions
(周期的に配列した二相連続ヘテロ接合を有するドナー・アクセプター共有結合性有機構造体における電荷動力学)
著者 : Shangbin Jin, Xuesong Ding, Xiao Feng, Mustafa Supur, Ko Furukawa, Seiya Takahashi, Matthew Addicoat, Mohamed E. El-Khouly, Toshikazu Nakamura, Stephan Irle, Shunichi Fukuzumi, Atsushi Nagai, and Donglin Jiang
掲載日:2013年1月16日(オンライン掲載)DOI: 10.1002/anie.201209513
本研究は、自然科学研究機構 分子科学研究所・江グループ(江 東林准教授)、同研究所・中村敏和グループ、大阪大学・福住俊一グループ、名古屋大学・Irle Stephanグループの共同研究により行われました。
本研究は、主にJST 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「太陽光と光電変換機能」研究領域(研究総括:早瀬 修二 九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授)における研究課題「シート状高分子を用いた光エネルギー変換材料の創製」(研究者:江 東林准教授)の一環として行われました。
江 東林(ちゃん どんりん)
自然科学研究機構・分子科学研究所・分子機能研究領域 准教授
TEL: 0564-59-5520
E-mail: jiang(at)ims.ac.jp(送信時には(at)を@にしてください)