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プレスリリース

パラジウム化合物が溶液中でベンゼンをとらえる仕組みを解明 (村橋グループ、柳井グループら)

概要

 自然科学研究機構分子科学研究所の村橋哲郎教授、山本浩二助教、柳井毅准教授、倉重佑輝助教らの研究グループは、パラジウム化合物が溶液中でベンゼンをとらえる仕組みを解明することに成功しました。
本研究成果は、国際化学誌「Angewandte Chemie International Edition」電子版に2015年1月21日に公開されました。
 

研究の背景

 パラジウム(Pd)は、有機化合物の変換を促進するための触媒として極めて重要な遷移金属です。パラジウム化合物が反応を促進する際には、一旦パラジウム化合物に有機化合物が結合し、その後パラジウム原子と有機化合物の原子との間で化学結合の組み換えを起こすことで有機化合物の変換を助けます。近年、有機溶媒や水に溶解するパラジウム化合物が有機分子をとらえて変換する仕組みの理解が大きく進み、パラジウム化合物を触媒とする反応を精緻に設計することが可能になってきました。しかし、パラジウム化合物が、工業的に重要な有機化合物であるベンゼンを溶液中でどのように安定にとらえるかについては謎でした。
 ベンゼンは最も基礎的な有機化合物のひとつであり、ベンゼンを変換することで多様な基礎化学品を合成することができます。代表的な安定有機分子でもあるベンゼンを変換するための有効な化学合成法として、金属触媒を用いる化学反応が開発されてきていますが、触媒として優れた活性を示すパラジウム化合物が、溶液中でベンゼンを安定にとらえる仕組みはわかっていませんでした。パラジウム化合物とベンゼンが結合する力は極めて弱いと信じられており、溶液中のパラジウム化合物がベンゼンを安定にとらえる現象自体がこれまで観測されていませんでした。研究チームは、パラジウム原子が複数個集まって生じるパラジウムクラスターが、ベンゼンを安定にとらえる能力を持つ可能性に着眼して研究を進め、パラジウム原子が3つ集合したクラスターがベンゼンを安定にとらえることを初めて明らかにすることに成功しました。
 本研究成果は、触媒として重要なパラジウム化合物が最も単純な芳香族分子であるベンゼンを安定にとらえる仕組みを初めて解明したものであり、今後のパラジウム触媒の分子設計に対する重要な指針を与えると期待されます。

 

研究の成果

 研究チームは、パラジウム原子1つだけでは、ベンゼンを安定にとらえる能力に乏しいものの、複数のパラジウム原子で1つのベンゼン分子を安定にとらえるのではないかと考えました。研究チームは、これまでにパラジウム原子の個数を制御しながら集合させてパラジウムクラスターを溶液中で合成する手法を開発してきました。今回、3つのパラジウム原子を集合させたパラジウムクラスターがベンゼンを安定にとらえることを観測することに成功しました(図1)。この成功の鍵は、3つのパラジウム原子を背面から支える配位子を適切に選択したことにあります。8個の炭素原子が環状につながった8員環分子であるシクロオクタテトラエンを背面配位子として用いると、パラジウムクラスターがベンゼンと強く結合することを発見しました。一方、背面配位子として、6員環分子や7員環分子を用いた場合には、ベンゼンを安定にとらえる能力を示しません(図2)。8員環有機分子がベンゼンを捕捉する上で重要な役割を担っている要因について、理論的な計算をおこなって究明しました。さらに、研究グループは、パラジウム原子を4つ集合させたクラスターが、ナフタレンを安定にとらえることを観測することにも成功しました(図3)。この場合も、8員環シクロオクタテトラエンがパラジウムクラスターの背面を支える優れた配位子として機能します。
 

m-11.jpg図1. 3つのパラジウム原子からなるクラスターがベンゼンを安定にとらえる。

m-2.jpg図2. パラジウムクラスターを支える背面配位子を適切に選択することが成功の鍵となる。8員環シクロオクタテトラエンを用いた場合に、ベンゼンをとらえる能力が高くなる。


m-3.jpg

図3  ベンゼンやナフタレンをとらえたパラジウムクラスターの分子構造
(L = アセトニトリル配位子)。
 

今後の展開

 本研究成果により、パラジウム化合物が溶液中でベンゼン分子を安定にとらえる能力を持つことが初めて明らかとなりました。本成果を契機として、ベンゼンとパラジウム分子の間の結合様式に対する理解が大きく進むと期待されます。また、本成果は、パラジウム触媒を用いたベンゼン環の分子変換反応のメカニズムを解明する上での重要な知見を与えると期待されます。
 

論文情報

掲載誌:Angewandte Chemie International Edition
論文タイトル:Modulation of Benzene or Naphthalene Binding to Palladium Cluster Sites by the Backside-Ligand Effect
著者:Yuki Ishikawa, Seita Kimura, Kohei Takase, Koji Yamamoto, Yuki Kurashige, Takeshi Yanai, Tetsuro Murahashi
掲載日:2015年1月21日(オンライン掲載) 
DOI:10.1002/anie.201409499
 

研究グループ

 本研究は、分子科学研究所・村橋グループ(石川裕騎氏、木村誠太氏、山本浩二助教、村橋哲郎教授)、柳井グループ(倉重佑輝助教、柳井毅准教授)、及び大阪大学大学院学生(木村誠太氏、高瀬皓平氏)により行われました。
 

研究サポート

 本研究は、文部科学省科学研究費補助金の新学術領域研究「柔らかな分子系」、若手研究(A)、および徳山科学技術振興財団助成研究等のサポートを受けて行われました。
 

研究に関するお問い合わせ先

村橋 哲郎
自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター教授
TEL: 0564-59-5580 E-mail: mura@ims.ac.jp
 

報道担当

自然科学研究機構・分子科学研究所・広報室
TEL/FAX  0564-55-7262
E-mail: kouhou@ims.ac.jp