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2015/02/13

プレスリリース

光でオン・オフ可能な超伝導スイッチを開発(山本グループら)

概要

 自然科学研究機構分子科学研究所(協奏分子システム研究センター)の須田理行助教、山本浩史教授、独立行政法人理化学研究所の加藤礼三主任研究員らの研究グループは、光に応答する有機分子を組み込んだ電界効果トランジスタを作製することで、光の照射によってオン・オフが可能な超伝導スイッチを世界で初めて開発しました。
 超伝導物質を用いた電界効果トランジスタは、高速かつ省エネルギーな超伝導エレクトロニクスの基盤技術として期待されており、これまでにも電気的にスイッチ可能な超伝導トランジスタの開発が行われてきましたが、今回の技術は将来的に光で遠隔操作可能な高速スイッチング素子や、超高感度光センサーなどの開発につながる可能性があります。
 本成果は、アメリカ科学振興協会(AAAS)が発行する科学雑誌『Science』に2月13日(日本標準時)に掲載される予定です。
 

研究の背景

電界効果トランジスタとは、ゲートと呼ばれる電極への電圧入力により回路に流れる電流の大きさを制御するスイッチング素子であり、スマートフォンやコンピュータを始めとする多くの電子機器の基盤技術として用いられています。近年では、より省電力かつ高速に情報を処理できるとされる量子コンピュータなどの実現へ向けて、電気抵抗がゼロである超伝導状態へのスイッチングが可能な超伝導トランジスタの開発が盛んに行われています。
研究グループはこれまでに、κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Br (以下、κ-Br)という有機物質を用いて電界効果トランジスタの開発を進めてきました。2013年には、有機物では世界で初となる超伝導トランジスタの開発に成功しており、柔らかさや軽さなどの元来の利点も相まって、これまで超伝導トランジスタには不利とされていた有機物の可能性が見直されつつありました。
 

研究の成果

今回の実験では、このκ-Brを用いた超伝導トランジスタのゲート電極部分を、スピロピランと呼ばれる光に応答して電気的に分極する有機分子からなる薄膜に置き換えた構造を持つ、新たな光駆動型トランジスタを作製しました。図1に示すように、これまでの電界効果トランジスタでは、外部電源を用いてゲート電極へ電圧を印加し、物質に電荷を蓄積させることで電気抵抗を制御していました。今回開発したトランジスタは、紫外光の照射によって有機薄膜を分極させることで物質に電荷を蓄積させ、また一方で、可視光の照射によって分極を消去して電荷を取り除くことが出来る仕組みになっています。

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    図1:従来の電界効果トランジスタ(A)と光駆動型トランジスタ(B)の模式図
従来の電界効果トランジスタ(A)では、外部電源によるゲート電極への電圧の印加によりκ-Brに電荷が蓄積される。今回開発した光駆動型トランジスタ(B)では、外部電源を用いることなく光照射によるスピロピラン薄膜の分極によってκ-Brに電荷が蓄積される。いずれの場合も、蓄積された電荷によりκ-Brの電気抵抗が減少し、超伝導へと転移する。  

このκ-Brを用いた光駆動型トランジスタを極低温まで冷却しながら電気抵抗測定をすると、初めは絶縁体状態でしたが、紫外光の照射により図2に示すように次第に電気抵抗が減少していき、最終的に7.3ケルビンで電気抵抗が急激に減少し、超伝導状態に転移する現象が観測されました。この超伝導状態は、紫外光の照射を止めても維持され、超伝導状態を恒久的に保持することが可能でした。また、可視光を照射すると元の絶縁体に戻る現象も観測され、光を用いて可逆にON・OFFが可能な超伝導スイッチとして動作させることが可能であることも明らかになりました。

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         図2:紫外光照射による絶縁体から超伝導への変化
初期状態は抵抗値の高い絶縁体状態であるが(赤線)、紫外光の照射と共に次第に抵抗値が減少し、180秒の照射後、7.3ケルビンで超伝導状態に転移する(青線)
 

この研究の社会的意義

本研究成果は、「光で超伝導をスイッチする」というこれまでにない新しいデバイスの概念を提示しており、光で遠隔操作が可能な高速スイッチング素子や、超高感度光センサーなど、既存のシステムの改良に留まらない新しいイノベーションに繋がることが期待されます。更に、今回用いた手法は、κ-Brに限らず、原理的には電界効果トランジスタに用いられている多くの物質に拡張して適用することが可能であると考えられます。従って、超伝導の利用に限らない様々な光駆動型相転移デバイスの開発につながる基盤技術になることも期待されます。
 

用語解説

1) 超伝導
物質の電気抵抗が一定温度以下でゼロになる現象。送電中のエネルギーロスが無いことから省エネルギーの送電ケーブルに用いられる他、多量の電流を流せることから、医療用のMRIやリニアモーターカーに用いる強力な電磁石に応用されている。

2) スピロピラン
光照射によってその「色」が変わる現象を示すフォトクロミック分子の一種。通常は閉環体と呼ばれる中性構造をとるが、紫外光照射で開環体と呼ばれる双性イオン構造へと構造変化し、可視光照射または熱処理によって閉環体へと戻る。

3) 可視光、紫外光
光は波としての性質を持っており、太陽光や蛍光灯の光は様々な波長(波の長さ)を持つ波が混ざっている。このうち、ヒトの目に見える光(波長:400~800ナノメートル程度)を可視光と呼び、これより波長が短くヒトの目に見えない光(波長:10~400ナノメートル程度)を紫外光と呼ぶ。
 

論文情報

掲載誌:Science
論文タイトル:Light-induced superconductivity using a photo-active electric double layer (光応答性電気二重層を利用した光誘起超伝導)
著者:Masayuki Suda, Reizo Kato, Hiroshi M. Yamamoto
掲載予定日:2015/2/13
 

研究グループ

 本研究は、自然科学研究機構分子科学研究所(協奏分子システム研究センター)の須田理行助教、山本浩史教授と理化学研究所の加藤礼三主任研究員の共同研究により行われました。
 

研究サポート

 本研究は科学研究費補助金No. 22224006, No. 25810143の助成を受けて実施されました。
 

研究に関するお問い合わせ先

須田 理行(すだ まさゆき)
分子科学研究所・協奏分子システム研究センター、助教
TEL (FAX) 0564-55-7347 (0564-55-7325)
E-mail:msuda_at_ims.ac.jp

 

山本 浩史(やまもと ひろし)
分子科学研究所・協奏分子システム研究センター、教授
TEL (FAX) 0564-55-7334 (0564-55-7325)
E-mail:yhiroshi_at_ims.ac.jp

 

報道担当

自然科学研究機構・分子科学研究所・広報室
TEL/FAX  0564-55-7262
E-mail: kouhou_at_ims.ac.jp

 

理化学研究所 広報室
TEL (FAX) 048-467-9272 (048-462-4715)
E-mail: ex-press@riken.jp