お知らせ
2015/04/14
プレスリリース
自然科学研究機構分子科学研究所の村橋哲郎教授(現東京工業大学大学院理工学研究科教授)及び自然科学研究機構分子科学研究所の柳井毅准教授らの研究グループは、β-カロテンが優れた金属捕捉機能をもつことを発見しました。2個の β-カロテン分子が最大で10個の金属原子を挟み込み、サヤエンドウのような形状をもつ分子を形成することを実証しました。
本研究成果は、Nature Publishing Groupが出版する「Nature Communications」に2015年4月10日に公開されました。
カロテン類は、天然に広く分布している有機色素の一種です。カロテン類は多数の炭素-炭素二重結合が連続した特異なπ-共役構造をもっており、このπ-共役構造に基づいて重要な機能を発現します。カロテン類が植物や動物の体内でどのような働きをしているのかについての研究が進んでいるほか、入手容易なカロテン類を人々の生活に役立てようとする研究も活発に行われています。現在までに、カロテン類の様々な機能が明らかにされてきましたが、金属捕捉機能については、まだ謎として残されていました。研究チームは、カロテン分子がその連続した炭素-炭素二重結合を用いて多数の金属原子を捕捉する可能性に着眼し、これを実験と理論の両面から実証することを目指しました。研究チームは、β-カロテンを用いて検討をおこない、β―カロテン分子がその連続した炭素-炭素二重結合を用いて最大で10個の金属原子を捕捉する能力を持つことを明らかにしました。本研究成果は、カロテン類が優れた金属捕捉機能をもつことを初めて明らかにしたものであり、カロテン類の新しい利用の道を示す成果として期待されます。
研究チームは、これまでにπ―共役系不飽和炭化水素類が金属原子を集合・整列させる性質を持つことを解明してきました。今回、研究チームは、代表的なカロテン類のひとつであるβ-カロテン分子(図1)が、その連続したπ―共役二重結合構造を使って多数の金属原子を捕捉するのではないかと考え、研究に着手しました。その結果、2つのカロテン分子が、10個の金属原子を連結させながら挟み込み、安定な化合物を形成することを発見しました(図2)。カロテン分子が金属原子を挟み込んだ化合物はサヤエンドウのような形状をしており、常温、溶液中で安定に存在します。β―カロテンが金属を捕捉する反応は、可視光の照射下で促進されます。
さらに、このサヤエンドウ状化合物は、複数の金属原子を出し入れする性質を持つことも明らかになりました。例えば、β―カロテン分子に挟まれた10個の金属原子の鎖から5個の金属原子を抜き取ることができます。また、抜き取った後に別の種類の金属原子を取り込ませることも可能で、パラジウム原子と白金原子がβ―カロテンに挟み込まれた化合物も合成できることがわかりました(図3)。β―カロテン分子の間に挟まれた金属原子の数が変わると色が大きく変化する性質を持つこともわかり、理論的な計算をおこなってこの要因を解明しています。
図1. β―カロテン分子の構造.11個の炭素-炭素二重結合が連続した構造をもつ.
図2. 2つのカロテン分子が最大で10個の金属原子を挟み込んでサヤエンドウのような形状をした安定な化合物ができる.
図3. β―カロテン-金属鎖化合物から5個の金属原子を取り出し、そこに、別の種類の金 属原子を取り込ませることも可能である.
本研究成果により、カロテンが優れた金属捕捉機能をもつことが新たにわかりました。今回の研究結果は、カロテン類の新たな化学利用(機能性金属クラスター触媒・材料の開発等)につながる可能性があります。また、今回発見されたカロテン-金属化合物は10個の金属原子が一列に並んで結合した特異な構造をもつことから、その物理的および化学的性質に興味が持たれます。
掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Multinuclear metal binding ability of a carotene
著者:Shinnosuke Horiuchi, Yuki Tachibana, Mitsuki Yamashita, Koji Yamamoto, Kohei Masai, Kohei Takase, Teruo Matsutani, Shiori Kawamata, Yuki Kurashige, Takeshi Yanai, Tetsuro Murahashi
掲載日:2015年4月10日(オンライン掲載)
DOI: 10.1038/ncomms7742
本研究は、分子科学研究所・村橋グループ(堀内新之介博士、立花祐貴氏、山下実都喜氏、正井航平氏、川俣志織氏、山本浩二助教、村橋哲郎教授(現東京工業大学大学院理工学研究科教授))、柳井グループ(倉重佑輝助教、柳井毅准教授)、及び大阪大学大学院学生(立花祐貴氏、高瀬皓平氏、松谷晃男氏)により行われました。
本研究は、科学技術振興機構(JST)さきがけ、文部科学省科学研究費補助金の新学術領域研究等のサポートを受けておこなわれました。
村橋 哲郎
東京工業大学 大学院理工学研究科 応用化学専攻 教授
自然科学研究機構 分子科学研究所 協奏分子システム研究センター 教授(兼任)
TEL: 03-5734-2148
E-mail: mura@apc.titech.ac.jp
自然科学研究機構・分子科学研究所・広報室
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