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2015/09/25

プレスリリース

水、酸および塩基に強い2次元有機骨格構造体の開拓に成功(江グループ)

自然科学研究機構分子科学研究所の江東林(ちゃん どんりん)准教授らの研究グループは、高活性、高い鏡像体過剰率、高いジアステレオ選択性および再利用できる不均一有機分子触媒を開発しました。不斉有機分子触媒反応は触媒が高価で再利用が切望されてきましたが、今回の成果でその可能性を拓いたと言えます。


本研究成果は、Nature Publishing Groupが出版する「Nature Chemistry」に2015年9月21日に公開されました。

研究の成果

2次元有機骨格構造体1)は、規則正しい分子配列を有し、ナノサイズの1次元チャンネル構造を創り出す高分子です。構成ユニットの設計により、一次構造だけでなく高次構造をもデザインできる物質として、近年大いに注目されています。特に、周期的な骨格構造および1次元チャンネル構造を活かした機能材料の開拓が盛んに行われています。

今回、2次元有機骨格構造体が持つ結晶構造の安定化に着目し、2次元高分子シート間における相互作用を強めることで、水、酸および塩基に強い結晶性多孔構造体の構築に成功しました。安定な2次元有機構造体をベースに、様々な機能開拓および応用展開ができるようになります。本研究では、その可能性の一つとして1次元チャンネルを利用した触媒システムの開拓を行いました。

下図のように、イミン結合を有する2次元有機骨格構造体に、電子供与性のメトキシユニットを構造体のエッジに位置するフェニル基に導入し、イミン結合の分極を和らげることで、層間作用を著しく強くした2次元有機骨格構造体の構築に成功しました。この2次元有機骨格構造体は、高い結晶性、高い安定性および高い表面積(2105 m2/g)を兼ね備えています。ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、メタノール、シクロヘキサノンなどの有機溶媒に1週間分散してもその結晶性と表面積は変わることなく、結晶および多孔構造が保たれたことが分かりました。また、室温および100度の水に1週間おいても構造が変わりませんでした。さらに、濃塩酸および水酸化ナトリウム(14 M)にそれぞれ1週間おいても積層構造および1次元チャンネル構造は維持されたままでした。このように様々な有機溶媒、水、強酸および強塩基に安定に存在する2次元有機骨格構造はありませんでした。安定な構造体は様々な機能開拓および応用展開を可能とします。

 

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本研究では、この2次元有機骨格構造体に不斉触媒機能を持たせるため、チャンネル壁に有機分子触媒活性点を導入し、2次元有機骨格構造体をベースとした不均一系触媒システムを構築しました。この手法では、触媒サイトの密度をきめ細かく調整することができます。これらの構造体は室温下水において不斉マイケル反応を触媒することを見いだしました。ナノサイズの細孔は基質を濃縮し、均一有機触媒より高い反応性を示しました。これらの触媒は、高い鏡像体過剰率およびジアステレオ選択性を示し、様々な基質に対して効率的に触媒できることを見いだしました。2次元有機骨格構造体は触媒反応後、多孔構造およびキラル構造が保たれていることが構造分析で明らかにしました。これらの不均一系触媒は遠心分離や濾過などを用いて反応液から簡便に回収することができ、再利用することができるという大きなメリットを持ちます。不斉有機分子触媒反応は触媒が高価で再利用が切望されてきました。今回、高活性、高い鏡像体過剰率、高いジアステレオ選択性および再利用できる不均一有機分子触媒が開発されたことで、応用への可能性が広がったと言えます。

 

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今後の展開

触媒反応は物質変換の鍵であり、省エネルギーで効率的な生産を担う技術・物質基盤として大きな注目を集めています。特に、不斉有機分子触媒反応は、医薬品の開拓・生産とも深く関連して重要な変換反応の一つです。金属イオンなどを用いることなく、水中、室温下で進行し、環境にも優しい不斉有機分子触媒システムの開拓は喫緊な課題です。今回の研究成果は、不斉有機分子触媒の構築に新しい土台を提供するものであり、革新的な技術向上に貢献することが期待されます。

分子科学研究所の江グループでは、世界に先駆けて2次元有機骨格構造体の設計、合成および機能開拓を行ってきています。最近では、新しい合成トポロジーと反応(Nature Communications, 2015, 6, 7786; Scientific Reports, in press)、二酸化炭素吸着と分離(J. Am. Chem. Soc. 137, 7079 (2015), Angew. Chem. Int. Ed. 54, 2986 (2015))、蓄電機能(Scientific Reports 2015, 5, 8225; Angew. Chem. Int. Ed. 54, 6814 (2015))、光応答機能(Angew. Chem. Int. Ed. 54, 8704 (2015))、光誘起電荷分離機能(J. Am. Chem. Soc. 137, 7817 (2015))などの開拓に成功しました。

 

用語解説

注1)2次元有機骨格構造体:共有結合で有機ユニットを連結し、2次元に規定して成長した多孔性高分子シートの結晶化による積層される有機構造体。結晶性と多孔性が2次元有機骨格構造体の基本物性であり、安定な積層構造の構築が機能開拓をはじめ、応用の鍵を握る。

 

論文情報

掲載誌:Nature Chemistry(Natureが発行する化学誌)

論文タイトル:Stable, crystalline, porous, covalent organic frameworks as a platform for chiral organocatalysts
(キラル有機触媒ためのプラットホームとした安定性、結晶性、多孔性を有する共有結合性有機骨格構造体)

著者:Hong Xu(元総研大生、現在Cornell大博士研究員), Jia Guo, Donglin Jiang

掲載予定日:9月21日にオンライン掲載 DOI: 10.1038/nchem.2352.

 

研究グループ

本研究は、自然科学研究機構分子科学研究所・江グループ(江 東林准教授)の研究により行われました。

 

研究サポート

本研究は、科学研究費補助金(基盤研究A)(代表者:江 東林)の一環として行われました。

 

研究に関するお問い合わせ先

 氏名 江 東林(ちゃん どんりん)
 所属 自然科学研究機構・分子科学研究所・分子機能研究部門 准教授
 TEL:0564-59-5520
 E-mail:jiang_at_ims.ac.jp

 

報道担当

 自然科学研究機構・分子科学研究所・広報室
 TEL/FAX  0564-55-7262
   E-mail: kouhou_at_ims.ac.jp