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プレスリリース

自然界に存在しない新規タンパク質分子を創り出すことに成功(古賀グループら)

自然科学研究機構分子科学研究所・協奏分子システム研究センターの古賀信康准教授、古賀理恵研究員、ワシントン大学のYu-Ru Lin、David Baker教授、ラトガース大学のGaohua Liu助教、Gaetano T. Montelione教授らの研究グループは、様々な形や大きさのタンパク質立体構造を自在かつ精密にデザインするための理論と技術の開発を行い、更に開発した技術を用いて自然界に存在しない新規タンパク質分子を創り出すことに成功しました。タンパク質分子は生命現象を司る分子の一つであり、タンパク質分子を自在にデザインする手法を確立することにより、細胞の制御・設計、マテリアル開発、医療などにおける寄与が将来的に期待されます。
 

本研究成果は、2015年9月22日に米国科学アカデミー紀要(PNAS)のオンライン速報版で公開されました。

 

研究の背景

DNAから転写・翻訳されて作り出されたタンパク質分子は、アミノ酸配列に従って特定の立体構造に折りたたむことで機能を発現し、様々な生命現象を生み出しています。望みのタンパク質分子を自在にデザインすることが可能になれば、様々な生命現象の制御および設計、さらには医療等において貢献することが可能になります。私たちのグループでは、自然界に存在しないタンパク質分子を計算機を用いて合理的にデザインすることにより、タンパク質分子の動作原理の解明と、望みの機能を持ったタンパク質分子をテーラーメイドに創出するための手法の開発に取り組んでいます。私たちはこれまでに、機能を持たないシンプルな立体構造を考え、その立体構造に折りたたむことのできるアミノ酸配列を完全にゼロからデザインするための手法を開発し、様々なトポロジーのタンパク質立体構造のゼロからのデザインに成功してきました。 本研究では、機能を持ったタンパク質分子のデザインを目指して、同じトポロジーの中でも、様々な形や大きさを持つタンパク質立体構造デザインの手法の確立に挑みました。

 

研究の内容

タンパク質分子の三次元立体構造は、規則的な水素結合パターンにより生じるα-helixやβ-sheetの二次構造がループでつながったものが三次元的に配置したものとして通常理解されます。私たちは、このタンパク質立体構造の”見方”を少し発展させ、二次構造よりも詳細な解像度で立体構造を眺めることにより研究に取り組みました。

タンパク質分子は、アミノ酸がペプチド結合で連なったものであり、タンパク質分子の様々な立体構造は、ペプチド結合面同士の主鎖二面角(φ、ψ)が変化することにより生み出されます。これら二面角の範囲は局所的な原子同士の排除体積により制限されていることが知られ、これらはRamachandran mapとして表現されています。私たちは、まずRamachandran mapを5つの領域(A,B,E,G,Oとそれぞれ命名)に分割し、さらにそれぞれの領域を色分けしました(図1)。次に、タンパク質構造のそれぞれの残基が形成している主鎖二面角がどのABEGOタイプに対応するのかを調べ、ABEGOタイプに応じてそれぞれの残基に色を付けタンパク質構造を描画しました(図2)。このようにすることで、タンパク質構造を主鎖二面角のパターン、すなわちABEGOパターンとして捉えることが可能になります。α-helixやβ-sheetの二次構造は、各々、A、Bの連続したパターンとして表現され、加えてループがどのようなパターンで形成されているのかが一目瞭然となります。

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図1:5つの領域(A,B,E,G,O)に分割したRamachandran map
( (OはCis-peptideを示す)。

 

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図2:主鎖二面角パターンを基にして描画したタンパク質立体構造。各残基のABEGOタイプにより、それぞれの残基を色付けして示してある。

 

次に、望みのタンパク質の形や大きさをデザインするために、このABEGOタイプを用いて私たちがこれまでに発見したタンパク質構造構築原理に関するルールの拡張を行いました。これまでに発見したルールは、二次構造パターンと三次構造モチーフに関するもので、「連続する二次構造がループでつながったunitが、ループの長さに応じてどのような三次構造を形成しやすいのか?」、といったことを体系化したものです。ABEGOタイプを用いて自然界のタンパク質構造を解析したところ、これまでに発見したルールは、より詳細には、限られたセットのABEGOパターンで表現されることを明らかにしました(図3)

 

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図3:ABEGOを用いて拡張したタンパク質立体構造構築原理に関する3つのルール。

 

このようにしてABEGOパターンにより、これまでに発見したルールを拡張することで、タンパク質の立体構造の形や大きさを制御することが可能になります。例えば、拡張したルールによると、α-helixとβ-strandがループでつながったαβ-unitのループ構造には、GB、GBA、BAABと3つのパターンが主に存在しますが、それぞれのループパターンでβ-sheetに対するα-helixの傾きが異なるため(図4)、異なったタンパク質の形を創り出すことが可能になります。また、ABEGOパターンに加えて、α-helixやβ-sheetの長さを変えることにより、様々な大きさのタンパク質構造をデザインすることが可能になります(図5)

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図4:αβ-unitのループタイプによりβ-sheetに対するα-helixの傾きが決まる。

 

151007_5.jpg図5:あるABEGOパターンに対する最適なα-helix(H)とβ-strandの長さ(S)。

 

このように拡張したルールを用いて、様々な形と大きさのタンパク質立体構造を計算機でデザインし、デザインしたアミノ酸配列を大腸菌に組み込み発現・精製を行い、実験的にその立体構造を決定しました。図に示すように、デザインした構造は非常に高い精度で実験構造と一致しており、本研究で確立した様々な形や大きさのタンパク質構造をデザインする手法の有用性が示されました(図6)

 

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図6:計算機によりデザインした様々な形と大きさのタンパク質構造と、実験(NMR)により決定された構造の比較。

 

今後の展開

本研究では、タンパク質構造を主鎖二面角パターンとして捉えることにより開発したタンパク質設計原理を用いて、自然界に存在しない様々な新規タンパク質分子の創製に成功しました。現在は、この設計原理を用いることにより機能性タンパク質のデザインに挑戦しています。望みのタンパク質分子を自在にデザインすることが可能になれば、様々な生命現象の制御および設計、さらには医療等において貢献することが可能になります。

 

論文情報

掲載誌:PNAS(米国科学アカデミー紀要)

論文タイトル:Control over overall shape and size in de novo designed proteins(様々な形や大きさの新規タンパク質分子の設計原理)

著者:Yu-Ru Lin1, Nobuyasu Koga1,2,3, Rie Tatsumi-Koga1,2, Gaohua Liu4, Amanda F. Clouser1, Gaetano T. Montelione4 & David Baker1

1. University of Washington, and Howard Hughes Medical Institute
2. Institute for Molecular Science, Research Center of Integrative Molecular  
  Systems
3. JST, PRESTO
4. NESG, Rutgers, The State University of New Jersey

掲載日:9月22日にオンライン掲載 

DOI: 10.1073/pnas.1509508112

 

研究サポート

本研究は、JST さきがけ「細胞機能の構成的な理解と制御」の研究助成を受けて行われました。

 

研究に関するお問い合わせ先

古賀信康(こが のぶやす)
 自然科学研究機構・分子科学研究所・協奏分子システム研究センター 准教授  
 TEL:0564-55-7379
 E-mail:nkoga@ims.ac.jp

 

報道担当

自然科学研究機構・分子科学研究所・広報室
 TEL/FAX  0564-55-7262 
 E-mail: kouhou@ims.ac.jp