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大森賢治教授が日本物理学会・第74回年次大会で招待講演を行います:「量子シミュレーションの国内外の動向と課題」(2019/3/14, 九州大学, 福岡県福岡市)

「量子シミュレーション」の国内外の動向と課題


自然科学研究機構 分子科学研究所
大森賢治
International trends of “quantum simulation” and its future challenges
Institute for Molecular Science (IMS), National Institutes of Natural Sciences

量子コンピュータ・量子シミュレータ・量子センサなど、近年開発競争が激化している量子科学技術は、電子や原子の「波の性質」を活かした質的に新しいテクノロジーである。スパコンでさえ10の何百乗年もかかるような計算を1秒以内で終わらせることができ、機能性材料・薬剤・情報セキュリティー・人工知能などに革命を起こし得るため、世界主要各国の科学技術政策において莫大な投資が行われている。


例えば米国では、国防省や国立科学財団(NSF)等により毎年約200億円オーダーの投資が行われている他、エネルギー省(DOE)においても2017年より新たな量子科学技術プロジェクトが開始された。EUでは2018年から総額約1300億円規模を投資する10年プロジェクト「Quantum Technology Flagship」が始まった。英国では2014年から5年間で約500億円を投入する「The UK National Quantum Technologies Programme」が進行中である。中国政府は、「科学技術イノベーション第13次五カ年計画(2016年)」の重点分野として、量子通信と量子コンピュータを重大科学技術プロジェクト、量子制御と量子情報を基礎研究の強化に位置づけている他、1000億円以上を投資して量子情報科学の国立研究所を合肥に建設中である。


民間企業に目を向けても、Google社は2013年に量子人工知能研究所を設立し、IBM社も量子情報技術を中心とするポストシリコン技術に5年間で30億米ドル規模の投資を進めている。Microsoft社は2005年にいち早く量子情報技術に特化した研究所Station Qを設立した他、2016年にはオランダ・スイス・デンマークの大学研究グループを吸収して量子情報技術の開発を進めている。Intel社も2015年以降、オランダの大学に10年間で5000万米ドルを投資して量子情報技術の開発を支援している。

このように活発な国際動向を受けて、日本でも、文部科学省の科学技術・学術審議会において、量子科学技術に関する政策課題を議論する「量子科学技術委員会」が2015年6月に発足し、ここでの議論を踏まえ2018年11月に新たな国家プロジェクト「光・量子飛躍フラッグシッププログラムQ-LEAP」(2018年度予算総額22億円)がスタートした。


以上の国内外の動向の中で、筆者は文部科学省からの依頼を受け、米国NSFやDOEにおける日米政府間会議や、EUフラッグシップにおける日米欧の各代表・政府関係者とのパネルディスカッション等において量子科学技術分野における日・米・EU間の協力について議論を進めてきた。また国内では、量子科学技術委員会の専門委員・副主査として同委員会の設営と運営に携わってきた他、林芳正・前文部科学大臣ご主催の会合において、大臣に量子科学技術の国際動向と日本の展望についてご説明するなど、我が国の量子科学技術政策の立案の一端を担ってきた。また、国内外の関連する大企業やベンチャー企業のトップ、あるいは欧米の量子科学技術研究のメインプレーヤー達とも綿密な議論を重ねてきた。本講演では、筆者がこの過程で学び感じてきたことを基に、特に「量子シミュレーション」に焦点を絞り、その国際動向と今後の展望について解説する。