分子科学研究所

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2020/04/13

研究成果

杉本敏樹准教授らの論文が2020 PCCP HOT Articlesに選出

京都大学大学院理学研究科の原田国明大学院生(当時)、分子科学研究所の杉本敏樹准教授らの研究チームが2020年1月3日に発表した論文「Thickness dependent homogeneous crystallization of ultrathin amorphous solid water films」がPhysical Chemistry Chemical Physics誌の2020 PCCP HOT Articlesに選ばれました。

本論文は以下のURLからご覧いただけます(2020年6月末まで無料でアクセスできます)。
https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2020/cp/c9cp05981d#!divAbstract


本研究について

非晶質物質の結晶化メカニズムは、結晶核の形成のされ方に応じて不均一核生成メカニズム注1)と均一核生成メカニズム注2)に分類されます。一般に、非晶質の薄膜ではその表面や界面が核生成の場となって結晶化が進行するケースが多く、水分子が非晶質的に固まったアモルファス氷の薄膜においても、結晶化の際には不均一核生成メカニズムで進行するものと信じられてきました。

私達は、Pt(111)をモデル基板としてアモルファス氷の超薄膜を作製し、その厚さを数nmから数十nmの範囲で系統的に変化させながら結晶化過程を系統的に調べました。氷試料の表面における結晶化を選択的にプローブすることができる計測手法と氷試料の全体における結晶化をプローブすることができる計測手法を同時に用いることにより、従来の定説を覆し、アモルファス氷薄膜の結晶化が均一核生成メカニズムで進行している事を突き止めました。さらに、均一核生成メカニズムで結晶化が進行しているにもかかわらず、アモルファス氷薄膜の結晶化キネティクスや結晶化温度が薄膜の厚さに依存して大きく変調されていくという新奇な現象を見出しました(図1)。赤外振動分光法に基づいて水素結合の構造解析を行ったところ、薄膜の厚さに依存して、熱力学的に最も安定なアモルファス氷(結晶化の一歩手前の状態)の水素結合の強さが顕著に変化するという特異なサイズ効果が発現していることが明らかになりました(図1)

st_20200413.png

図1.Pt(111)基板上のアモルファス氷薄膜に対する、O-H・・・O水素結合長の分布(○)、結晶化速度(△)、及び結晶化温度(◇)の膜厚依存性。結晶化は膜全体での均一核生成メカニズムで進行している。
 

結晶化のキネティクスは、非晶質物質の安定性を決める重要なファクターです。これまでは、『表面や界面の微視的構造』を変調させて非晶質物質の超薄膜の安定性を制御する試みがなされてきましたが、本研究では、『膜の厚さ』を変調させること自体が非晶質超薄膜の安定性のデザインや制御に本質的になり得ることが示されました。本研究に派生して、他の基板上でのアモルファス氷超薄膜の結晶化挙動の系統的理解や、更に分厚い領域でのアモルファス氷膜の結晶化挙動の変化の有無などにも興味が持たれます。

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注釈1) 不均一核生成による結晶化:
結晶核が薄膜の表面や界面で優先的に形成され、結晶ドメインが薄膜内部全体に広がって結晶化が進行する現象。

注釈2) 均一核生成による結晶化:
結晶核が薄膜全体でランダムに形成され、それらの結晶ドメインが広がって薄膜全体の結晶化が進行する現象。