分子科学研究所

サイト内検索

お知らせ

お知らせ詳細

2021/03/25

プレスリリース

ナノグラフェンの二重らせん構造が電子回折で明らかに〜分子の凹凸でパズルのように組み上がる〜(瀬川泰知准教授ら)

発表のポイント

  • 有機溶媒中で集積し微細な繊維構造を形成する湾曲ナノグラフェンを開発した

  • 湾曲ナノグラフェンが二重らせん状に集積していることを電子回折結晶構造解析(注1)で明らかにした

  • 分子の凹凸デザインによる新たなナノファイバー形成方法を見出した

0325_1.png

概要

分子が自発的に集合して形成するナノメートルサイズの繊維状物質「超分子ナノファイバー」は、半導体材料やゲル化剤の有用な材料です。分子を1方向に自発的に集積させるためには分子同士に適切な相互作用部位をもたせる必要があり、酸素原子や窒素原子を含む置換基や長い炭化水素置換基が必須であるとされてきました。

今回、分子科学研究所の瀬川泰知准教授は、名古屋大学の伊丹健一郎教授、加藤健太大学院生(研究当時)、理化学研究所の高場圭章特別研究員、眞木さおり研究員、米倉功治グループディレクター(東北大学 多元物質科学研究所を兼任)らとの共同研究によって、有機溶媒中で自己集合しナノファイバーを形成する湾曲ナノグラフェンを開発しました。さらに電子回折結晶構造解析によってファイバー中での分子配列を決定し、湾曲ナノグラフェンが二重らせん構造をとっていることを明らかにしました。二重らせんの内部では、置換基をもたない湾曲ナノグラフェンがお互いの凹凸によってパズルのように組み上がっています。

本研究によって、分子の凹凸デザインという新しい超分子ナノファイバー形成方法が見いだされました。炭素ナノファイバーは分子エレクトロニクス材料として期待されている材料であり、本法によってこれまで不可能であった様々な炭素ナノファイバーの合成が期待できます。

本成果は2021年3月24日午後9時(日本時間)に、アメリカ化学会誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

 

研究の成果

今回、分子科学研究所の瀬川泰知准教授は、名古屋大学の伊丹健一郎教授、加藤健太大学院生(研究当時)、理化学研究所の高場圭章特別研究員、眞木さおり研究員、米倉功治グループディレクターらとの共同研究によって、有機溶媒中で自己集合しナノファイバーを形成する湾曲ナノグラフェンを開発しました。炭素68個、水素28個からなる湾曲ナノグラフェン(図1)を合成し、各種有機溶媒と混合したところ、約1日でゲル状態になりました(図2左)。ゲル中における湾曲ナノグラフェンの重量比は1%以下であり、効率的なゲル化剤であることが分かりました。透過型電子顕微鏡によって、ゲル中において湾曲ナノグラフェンがナノファイバーを形成していることが観測されました(図2右)

置換基をもたないナノグラフェンが超分子ナノファイバーを形成する例はこれまでになく、集積構造の詳細な解析が求められましたが、得られたナノファイバーは最も細いもので直径約3ナノメートル、それが束になった部分でも最大で数100ナノメートルと非常に細いために、従来法であるX線結晶構造解析(注2)では解析できませんでした。そこで、微結晶の解析が可能な電子回折結晶構造解析を適用したところ、ナノファイバー内の分子配列を詳細に明らかにすることができました。ファイバー内では分子が互いの凹凸に合わせて秩序よく整列し、さらに二重らせん状に絡まった形で直径2.8ナノメートルの1本のファイバーを形成していることが分かりました(図3)。分子の凹凸によって、置換基のない湾曲ナノグラフェンが超分子ナノファイバーを形成できることを示しました。

 

今後の展開・この研究の社会的意義

本研究によって、分子の凹凸デザインという新しいナノファイバー形成方法が見いだされました。炭素ナノファイバーは分子エレクトロニクス材料として期待されている材料であり、本法によって得られたファイバー内でさらに炭素炭素結合を形成することによって、これまで不可能であった様々な炭素ナノファイバーの合成が可能になることが期待されます。

210325_2.png

(図1)今回開発した湾曲ナノグラフェンの分子構造。灰色:炭素原子、白:水素原子。

210325_3.png

(図2)湾曲ナノグラフェンとジクロロメタンのゲル(左)、透過型電子顕微鏡で観測したゲル中のナノファイバー(右)。

210325_44.png

(図3)湾曲ナノグラフェンが集積した二重らせんナノファイバー1本の構造。
(a)2分子が凹凸を組み合わせて集積している様子。(b)ナノファイバーを上から見た図。45°ずれながら直径2.8ナノメートルの二重らせんを形成している。(c)ナノファイバーを横から見た図。(d)ナノファイバーの束。

 

用語解説

(注1)電子回折結晶構造解析
透過型電子顕微鏡を用いて、電子回折パターンから単結晶中の分子構造やその配列を明らかにする手法。数100ナノメートル程度の超微結晶でも解析可能であることから、これまでに解析できなかった様々な分子集合体の構造解析が期待されている。(1ナノメートルは100万分の1ミリメートル)。

(注2)X線結晶構造解析
単結晶にX線を当て、その回折パターンを解析することで、単結晶中の分子構造やその配列を明らかにする手法。有機分子では0.1ミリメートル角程度の大きさの単結晶作製が必要。

 

論文情報

掲載誌:Journal of the American Chemical Society

論文タイトル:"Double-helix supramolecular nanofibers assembled from negatively curved nanographenes"
(「負曲率ナノグラフェンの集合による二重らせん超分子ナノファイバー」)

著者:Kenta Kato, Kiyofumi Takaba, Saori Maki-Yonekura, Nobuhiko Mitoma, Yusuke Nakanishi, Taishi Nishihara, Taito Hatakeyama, Takuma Kawada, Yuh Hijikata, Jenny Pirillo, Lawrence T. Scott, Koji Yonekura, Yasutomo Segawa, and Kenichiro Itami

掲載日:2021年3月24日午後9時(日本時間)オンライン公開
DOI:10.1021/jacs.1c00863

 

研究グループ

分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域 錯体物性研究部門
名古屋大学大学院理学研究科
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)
理化学研究所 放射光科学研究センター 利用技術開拓研究部門 生体機構研究グループ
理化学研究所 放射光科学研究センター XFEL研究開発部門 ビームライン研究開発グループ
 イメージング開発チーム
理化学研究所 創発物性科学研究センター 創発ソフトマター機能研究グループ
東京都立大学 理学部物理学科 理学研究科物理学専攻
京都大学 エネルギー理工学研究所
関東化学中央研究所
北海道大学 化学反応創成研究拠点(WPI-ICReDD)
ネバダ大学リノ校化学科
理化学研究所 科技ハブ産連本部 バトンゾーン研究推進プログラム
 理研-JEOL連携センター 次世代電子顕微鏡開発連携ユニット
東北大学 多元物質科学研究所

研究サポート

科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業総括実施型研究(ERATO)
「伊丹分子ナノカーボンプロジェクト」(課題番号:JPMJER1302、研究総括:伊丹健一郎)

日本学術振興会 科学研究費補助金 特別推進研究「未踏分子ナノカーボンの創製」
(課題番号:JP19H05463、研究代表者:伊丹健一郎)

日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(B)「トポロジカルπ共役化学の開拓」
(課題番号:JP19H02701、研究代表者:瀬川泰知)

文部科学省科学研究費補助金 新学術領域研究(研究領域提案型)「π造形科学」
公募研究(課題番号:JP17H05149、研究代表者:瀬川泰知)

日本医療研究開発機構(AMED)医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)
(研究代表者:米倉功治)

科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業 探索加速型「共通基盤」領域「微小結晶構造の
自動・高精度電子線解析」(課題番号:JPMJMI20G5、研究開発代表者:米倉功治)

大幸財団(研究代表者:瀬川泰知)

豊秋奨学会(研究代表者:瀬川泰知)

研究に関するお問い合わせ先

伊丹 健一郎(いたみ けんいちろう)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM) 拠点長・教授
E-mail:itami_at_chem.nagoya-u.ac.jp

瀬川 泰知(せがわ やすとも)
分子科学研究所 生命・錯体分子科学研究領域 錯体物性研究部門 准教授
E-mail:segawa_at_ims.ac.jp

米倉 功治(よねくら こうじ)
理化学研究所 放射光科学研究センター 利用技術開拓研究部門 生体機構研究グループ
グループディレクター / 科技ハブ産連本部 バトンゾーン研究推進プログラム
理研-JEOL連携センター 次世代電子顕微鏡開発連携ユニット ユニットリーダー
東北大学 多元物質科学研究所 教授
E-mail:yone_at_spring8.or.jp

報道担当

自然科学研究機構 分子科学研究所 研究力強化戦略室 広報担当
TEL:0564-55-7209 FAX:0564-55-7374
E-mail:press_at_ims.ac.jp   

理化学研究所 広報室 報道担当
E-mail:ex-press_at_riken.jp

科学技術振興機構 広報課
TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432
E-mail:jstkoho_at_jst.go.jp

 

JST事業に関するお問い合わせ先

水田 寿雄(みずた ひさお)
科学技術振興機構 未来創造研究開発推進部
TEL:03-6272-4004 FAX:03-6268-9412
E-mail:kaikaku_mirai_at_jst.go.jp

※_at_は@に変換してください。