分子科学研究所

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2023/09/01

研究成果

佐野雄二特命専門員の研究成果がScientific Reportに掲載されました。

社会連携研究部門の佐野雄二特命専門員の研究成果が、2023年8月31日(木)18時(日本時間)に英国科学誌「Scientific Reports」(オンライン)に掲載されました。

プレスリリースの詳細は以下(外部リンク、大阪大学)より閲覧可能です。
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230831_3

 

タイトル

フェムト秒レーザー照射で“金属材料が鍛えられる”一瞬の原子の動きを捉えた!
―長寿命材料の創成法・構造物の延命法のさらなる発展に貢献―

 

研究成果のポイント

  • ◆ フェムト秒レーザー照射直後の金属材料内部の衝撃波伝播に伴う応力、ひずみ、塑性変形の複雑な挙動を示すことに世界で初めて成功した。
  • ◆ フェムト秒レーザー照射直後の金属材料の変形は超高速であるため、その原子スケールの変形挙動を正確に捉えることは困難であった。
  • ◆ 長寿命材料の創成と構造物の延命を可能とするフェムト秒レーザー衝撃加工法のさらなる発展が期待でき、カーボンニュートラルおよび安全・安心社会の実現に貢献する。

 

 概要

大阪大学大学院工学研究科の佐野智一教授、松田朋己助教を中心とする研究グループは、フェムト秒レーザー※1照射直後の金属材料内部の応力、ひずみ、塑性変形の複雑な挙動を示すことに世界で初めて成功しました。
フェムト秒レーザーは一般的には固体材料の微細加工や眼科治療、外科手術などに用いられますが、この数年の間に新しい加工法としてフェムト秒レーザー衝撃加工が開発されています。金属材料にフェムト秒レーザーを照射したときに駆動する衝撃波※2をフェムト秒レーザー衝撃波と呼び、このフェムト秒レーザー衝撃波を利用した加工法がフェムト秒レーザー衝撃加工です。フェムト秒レーザー衝撃加工によって、物質中に特異な微細構造が作り出され、また、金属材料は鍛えられ強くなり壊れにくくなります。そのため、フェムト秒レーザー衝撃波の特性は、他の衝撃波の特性とは異なる可能性があると思われてきました。しかしながら、フェムト秒レーザー衝撃波による金属材料の変形は超高速であるため、その変形挙動を正確に捉えることはこれまで困難でした。
今回、研究グループは、フェムト秒レーザー衝撃波によって超高速で変形している金属材料に、パルス幅が10フェムト秒のX線自由電子レーザー※3を照射し、超高速で変形しつつある原子の一瞬の動きをX線回折法で捉えました。その結果、フェムト秒レーザー衝撃波による変形の初期過程は、意外にも、従来の衝撃波によるものと同じであることが分かりました。また、理論的に予測されていた応力波と歪み波のピークの時間的なずれを、初めて実験的に発見しました。さらに、応力波と歪み波のピークの間に塑性波のピークが存在するという、理論的にも予測されていなかった新しい発見もありました。これらの発見により、長寿命材料の創成と構造物の延命を可能とするフェムト秒レーザー衝撃加工法のさらなる発展と、カーボンニュートラルおよび安全・安心社会の実現が期待されます。
本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に、8月31日(木)18時(日本時間)に公開されます。
 

論文情報

タイトル: “X-ray free electron laser observation of ultrafast lattice behaviour under femtosecond laser-driven shock compression in iron”

著者名: Tomokazu Sano, Tomoki Matsuda, Akio Hirose, Mitsuru Ohata, Tomoyuki Terai, Tomoyuki Kakeshita, Yuichi Inubushi, Takahiro Sato, Kohei Miyanishi, Makina Yabashi, Tadashi Togashi, Kensuke Tono, Osami Sakata, Yoshinori Tange, Kazuto Arakawa, Yusuke Ito, Takuo Okuchi, Tomoko Sato, Toshimori Sekine, Tsutomu Mashimo, Nobuhiko Nakanii, Yusuke Seto, Masaya Shigeta, Takahisa Shobu, Yuji Sano, Tomonao Hosokai, Takeshi Matsuoka, Toshinori Yabuuchi, Kazuo A. Tanaka, Norimasa Ozaki, and Ryosuke Kodama

DOI: 10.1038/s41598-023-40283-6