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理論・計算分子科学研究領域斉藤グループ

場所:明大寺キャンパス 南実験棟4F
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揺らぎ・緩和、不均一性、階層的動力学、多次元解析

凝縮系における階層的ダイナミクスの理論研究

水の特異的な熱力学的性質、光合成系の高速なエネルギー移動の起源、タンパク質における機能発現機構などはどのように生まれるのでしょうか?

溶液や生体分子などの系では、フェムト秒オーダーの分子振動から、マイクロ秒からミリ秒さらに遅い時間スケールにいたる集団運動やタンパク質の構造の変化が存在します。このような階層的な運動は幅広い時間スケールを持っているだけでなく、それぞれの運動の空間スケールも異なっています。光などの外部摂動による分子の電子状態変化によっても、このような時間的・空間的に不均一な運動が誘起され、集団的な構造変化や化学反応にいたることもあります。そして、このような熱的および非熱的な電子や分子動力学による状態の変化の結果として、溶液や生体分子系は複雑に変化し、様々な物性や機能の発現につながっていると考えられます。私達は統計力学や量子力学に基づく独自の理論計算・解析手法を開発し、以下の理論的・計算科学的研究を展開しています。

光を利用することにより、系の運動の時間(エネルギー)スケールや変化を調べることが可能となります。しかも、高度に制御された複数の光を用いること(これを高次非線形分光法と呼びます)により、複雑な運動の絡み合いやエネルギーがどのように緩和するかを解明することが可能となります。私達は、高次非線形分光法の理論的背景を明らかにし、その第一原理的計算手法の開発を世界に先駆けて行いました。また、水の分子内・分子間運動の三次赤外分光法に関する理論計算を行い、水の最も重要な動的特徴である超高速エネルギー緩和の起源を明らかにしてきました。

私達は、高次非線形分光法の理論的考え方を超高速動力学の解析だけでなく、不均一な運動や複数の運動間の動的カップリングの解析にも展開できることを見出しました。そこで、過冷却液体の時間的・空間的不均一動力学の起源についても研究を展開し、様々な過冷却液体に対する多時間相関関数に関する系統的な解析から動的不均一性の寿命と揺らぎの関係を明らかにしました。さらに、様々な時間スケールの階層的な構造揺らぎがどのようにカップルし構造変化が起こっているかを解き明かす手法を開発しました。この考えをさらに展開することにより、機能発現の分子論的起源の理解につながると期待しています。以上の研究に加え、タンパク質における遅い化学反応の起源、水の特異的熱力学性質の動力学的起源、動力学情報に基づく反応座標の抽出、光合成系の効率的なエネルギー移動における時空間相関の解明などにも取り組んでいます。

このように、凝縮系における様々な時空間スケールをもつ階層的な揺らぎの中から、どのように状態変化や反応が引き起こされ、物性や機能が発現するのかという多体分子系の基本的な疑問の解明、さらには、新しい物性・機能発現の指導原理の獲得をめざした理論研究を行っています。

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(上)長時間の分子シミュレーションから抽出した動的な情報から決定したタンパク質の構造変化に関する反応座標と自由エネルギー面。(下)多時間相関関数の解析から明らかにされた階層的時間スケールを持つ構造揺らぎ間の動的カップリング。

参考文献

  1. T. Yagasaki and S. Saito, “Fluctuations and Relaxation Dynamics of Liquid Water Revealed by Linear and Nonlinear Spectroscopy,” Annu. Rev. Phys. Chem. 64, 55-75 (2013) (Invited).
  2. K. Kim and S. Saito, “Multiple Length and Time Scales of Dynamic Heterogeneities in Model Glass-Forming Liquids: A Systematic Analysis of Multi-Point and Multi-Time Correlations,” J. Chem. Phys. (Special Topic: Glass Transition) 138, 12A506 (13 pages) (2013). (invited).
  3. T. Mori and S. Saito, “Dynamic Heterogeneity in the Folding/ Unfolding Transitions of FiP35,” J. Chem. Phys. 142, 135101 (7pages) (2015).
  4. J. Ono, S. Takada, and S. Saito, “Couplings between Hierarchical Conformational Dynamics from Multi-Time Correlation Functions and Two-Dimensional Lifetime Spectra: Application to Adenylate Kinase,” J. Chem. Phys. (Special Topic: Multidimensional Spectroscopy) 142, 212404 (13 pages) (2015) .