セッションと講演者 |
セッション1(11月10日午前):Hydrogen bonding network and proton transfer |
概要:水素結合は分子間(内)相互作用の中でも、指向性を持っているという特徴をもつ。水素結合ネットワークはこの特徴 をもとに成り立ち、相互作用の集合体として分子科学の研究対象となってきた。また、ネットワークの性質は、生体分子の立体構造形成や蛋白質内プロトン移動 という形で生体分子の機能発現の基になっている。最近、水素結合による塩基対(7-アザインドール)について、超高速分光を用いた直接観測によってプロト ン移動機構が明らかになり、長年の論争に決着がつくなど、分子間水素移動がホットな話題となっている。この決着に至る論争には、水素結合クラスターによる 研究が大きな貢献をなしている。また、水クラスターがサイズ選別され赤外吸収スペクトルで観測されるなど、水素結合性分子の集団形成についても大きな進展 が見られている。一方、蛋白質内プロトン移動の典型例であるプロトンポンプについても、分光法や人工変異体を用いた研究から理解が進んでいる。プロトンポ ンプでは、ネットワークのなかで方向性をもったプロトン移動が実現しており、指向性をもった相互作用、弱い(柔軟性をもった)相互作用という水素結合の性 質が特徴的に現れている。そのような特徴的な系を理解することは水素結合に関する分子科学的理解を深めるに違いない。このセッションでは、水素結合性クラ スター、およびプロトン移動についての最近の進展について概観し、ネットワークの形成とそこで起きるプロトン移動について議論する。水素結合クラスターの 研究から得られた知見とプロトンポンプの研究から得られた知見を合わせて議論することにより、水素結合に関する分子科学的理解を深めることを目指す。
講演者:藤井朱鳥(東北大)、藤井正明(東工大)、関谷博(九大)、神取秀樹(名工大)、Rainer Weinkauf (Heinrich Heine University, Duesseldorf, Germany) |
セッション2(11月10日午後):Properties and dynamics of soft interface |
概要:界面は複数の相の境界ではあるが、その性質はバルクの相の単純な内挿では理解できない。したがって、界面には、バ ルクの相にはみられない新しい化学があると期待される。生体系における界面の典型例は生体膜である。生体膜においては、物質輸送、情報伝達、エネルギー産 生など生命活動に重要な過程が起きている。これらは、特異性、効率性などの点で化学反応としてきわめてユニークである。これら界面で起きる化学を理解する には、界面で起きる現象を観測することが第一歩であり重要である。しかし、界面の領域はバルクの領域に比べ一般には非常に小さく、通常の方法では観測でき ない。そこで、界面を選択的に観測する手法が重要となる。界面選択的分光法は、1980年代にShenらによって初めてなされた。最近では液・液界面に存 在する分子の電子スペクトル、振動スペクトルを高感度に観測する方法が開発されている。現時点ではまだなされていないが、今後膜蛋白質の反応など膜界面で の現象観測に適用されるものと期待される。このセッションでは、界面の化学を研究しておられる方々に、界面のユニークな性質、界面を選択的に観測する先端 的計測手法などについてお話しいただき、界面の分子科学について議論する。そして、このような研究から生み出された概念や計測手法が、生体膜で起きる生物 化学現象の理解にどのように貢献できるかについて議論する。
講演者:田原太平(理研)、石橋孝章(広島大)、大西洋(神戸大)、南後守(名工大)、Robert A. Walker (University of Maryland, USA) |
セッション3(11月11日):Protein structure and dynamics: spectroscopy and crystallography |
概要:前半部では生体分子研究の新しい方法論について議論する。新しい計測手法・技術によって、新しい科学を開拓するの が、分子科学のアイデンティティであり、魅力である。蛋白質の分子科学においても、近年新規な分光学手法が開発され、新しい観点から蛋白質や生細胞の研究 が行われている。また、電子状態コヒーレンスや振動状態コヒーレンスから反応動力学や揺らぎを観測するという手法を蛋白質ダイナミクスの研究に持ち込んだ 研究も今後の発展が期待されるものである。ここでは、これらの最新の研究成果を紹介していただき、分光学手法の最先端の現状と将来の可能性について議論す る。 後半部では、ヘム蛋白質を中心に蛋白質の構造-機能相関について議論する。近年の分子細胞生物学的な研究の進展により、生体内における金属イオンを含む蛋 白質は、従来想定されていたよりもはるかに多くの重要な生命現象にかかわっていることが明らかとなってきた。このセッションでは、代表的な金属イオンを含 む蛋白質であるヘム蛋白質の新たな機能として、種々の小分子に対するセンサー機能に注目し、構造化学的な知見を元にその機能発現の分子機構について議論し たい。
講演者:松下道雄 (東工大)、熊崎茂一(京大)、濵口宏夫(東大)、小倉尚志(兵庫県立大)、Paul M. Champion (Northeastern University, USA ) 、Manho Lim (Pusan National University, Korea) 、Boi Hanh Vincent Huynh(Emory University, USA)、Mike Green (The Pensylvania State University)、石森浩一郎(北大)、青野重利(岡崎統合バイオ)、城 宜嗣(理研播磨)、齋藤正男(東北大) |
セッション4(11月12日午前)Design of active sites of metalloproteins and model complexes |
概要:生体機能は、化学的に突き詰めれば一連の化学反応から構成されると考えられる。したがって、生体機能の分子論的理 解には、個々の化学反応過程の詳細な検討が必要であるが、蛋白質の複雑性から、そこで行われる化学反応過程を一つ一つ抽出し、その分子論的描像を明らかに することは不可能である。そこで、注目する生体機能を再現できるモデルの構築とその分子科学的な解析が必須となる。さらにここで得られた情報は、生体機能 の人工的設計やその制御にもつながり、生体機能を基盤とした新規化学反応過程の開発にもつながる。本セッションでは、その分子論的理解が進んでいる金属蛋 白質に焦点を絞り、そのモデル化により蛋白質機能の何が明らかになり、今後何を期待できるか議論する。
講演者:伊東 忍(阪市大)、福住俊一(阪大)、林 高史(阪大)、鈴木正樹(金沢大)、渡辺芳人(名大) |
セッション5(11月12日午後)Biomolecular function: from molecule to cells |
概要:今後分子科学のターゲットは、単一の蛋白質から蛋白質の相互作用系や蛋白質複合体、さらにはその集積である細胞や 組織の機能の分子論的解明へと進み、最終的には生命そのものについてもその直接のターゲットとなるかもしれない。現在のところ、その十分な方法論を持ち合 わせていないため、分子論的な解析が不可能である蛋白質相互作用系や蛋白質複合体においても、その生化学的、分子生物学的な研究成果を分子科学的に捉える ことで、その解明の端緒がつかめる可能性は否定できない。本セッションでは生体機能として重要で、比較的近い将来に分子科学による解析が期待できるいくつ かのテーマについて、分子生物学的、生化学的研究を検討することで、その分子論的解明のためにはどのような分子科学的手法が必要とされ、また期待されるの か議論してみたい。
講演者:David Giedroc (Indiana University, USA)、長谷俊治(阪大)、岩井一宏(阪市大)、末松 誠(慶応大) |