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演 題 「非平衡物理学の新展開」研究会
日 時 2007年12月18日(火) 13:00 より 2007年12月19日(水) 16:20 まで
場 所

分子研研究棟301号室

概 要

プログラム

12月18日(火)(1日目)

<<有機一次元系>>

13:00-13:45

「half-filled強相関一次元系の光誘起相転移」
岡本 博(東大新領域)


half-filledの強相関一次元電子系である有機電荷移動錯体や遷移金属錯体で見出されてきた光誘起相転移について概観する。また、光誘起中性―イオン性相転移、光誘 起CDW-モットハバード相転移に関する最近の話題についても紹介する。

13:45-14:45

「擬1次元電子系における光誘起相転移(異種相ドメイン形成)1.格子変化を伴う場合 2.格子変化を伴わない場合」
岩野薫(物構研)


1次元性が高いと考えられる系のバンド絶縁体(場合によってはパイエルス絶縁体)およびモット絶縁体という二つの 相間の光誘起相転移について理論的に議論する。特に、題目にも掲げたとおり、格子変化を伴う場合と伴わない場合の二つに概念的に分類し、それぞれにおいて どのようにドメイン形成が記述されるかについて実際の物質系を念頭に詳しく述べる。さらに、特に後者において発生したドメインの動的性質(重心・空間的広 がり・スピンなどの自由度に対応する)について述べ、X線非弾性散乱や角度分解光電子分光などの高エネルギー分光によりそれらを検出する実験を提案する。

14:45-15:00

休 憩

15:00-15:30

「アルカリ-TCNQにおける光誘起スピンパイエルス相融解のダイナミクス」  
上村紘崇(東大新領域)


アルカリ-TCNQ結晶の光誘起スピンパイエルス相融解のダイナミクスについて報告する。報告内容は、①光キャリアのダイナミクス、②スピンパイエルス相 の融解効率、③緩和に伴うコヒーレント振動、の3点である。①に関しては、ミッドギャップ吸収の時間特性からみた光キャリアの緩和過程について、②に関し ては、融解効率の温度依存性(特に転移点近傍の挙動)について、③に関しては、スピンパイエルス相融解に伴って観測されるコヒーレント振動について、議論 する。

15:30-16:15

「2量化した1次元モット絶縁体における光誘起現象の理論的解析」  
前島展也(東北大理、分子研)


近年、K-TCNQやTTTAなどの有機スピンパイエルス物質の2量化相に光照射を行って2量化を融かす実験的試 みが行われている。その結果、実際に光照射後に2量化が融解することを示唆する結果が得られたほか,K-TCNQでは2量化が融け始めるまでの非常に短い 時間に反射率スペクトルの低エネルギー領域に新たなギャップ内ピークが出現することが明らかとなっている。本講演においては、これらの現象を理解するため に行った理論的解析とその結果について紹介する。この系の光励起状態を理解する上で重要となる電荷移動励起状態について言及した後、この励起状態を用いた 光照射後の現象についての議論を展開する。特にK-TCNQのギャップ内ピークに関する解析結果を 中心に発表する予定である。

16:15-16:45

「1.1/2フィルド・スピンパイエルス/モット系の散逸、2.1/4フィルド電荷秩 序系の光誘起電子格子状態」  
米満賢治(分子研)


1.強相関電子系で光励起状態は速く緩和するか?いかに?といった疑問に答えるため、1次元1/2フィルド模型の 電子系から格子系へのエネルギー移動を計算し、スピンパイエルス/モットvs.パイエルス/バンド絶縁体を比べる。パイエルス型やホルシュタイン型の相互 作用より、通常は考慮されない電子-電子-格子相互作用がモット絶縁 相で効いている。
2.(EDO-TTF)2PF6の0110電荷秩序を光誘起融解して得られる状態を過渡スペクトルの実験/理論の比較から推測する。観測するエネルギーによって振動のコヒーレンスが大きく違う機構を考えてみる。

16:45-17:00

休憩およびチェックイン

<<有機二次元系>>

17:00-17:45

「1/4フィリング系(BEDT-TTF)塩の光誘起絶縁体-金属転移」 
岩井伸一郎(東北大理)


典型的な二次元有機伝導体である(BEDT-TTF)_2Xは、その分子配列の違い(α、θ、κ...)によって、電荷秩序、強誘電、モット絶縁体、超伝 導など様々な興味深い物性を示す。中赤外、テラヘルツ領域の反射、透過、SHG超高速光応答や、その圧力効果などから、光誘起絶縁体-金属転移のダイナミ クスを議論する。また、相境界近傍で 観測される臨界減速や、巨視的振動現象など、相転移(とその前駆現象)として特徴 的なダイナミクスを議論する。

17:45-18:15

「2次元1/4フィリングET塩に対する電子格子相関効果:強相関極限からのアプロー チ」 
宮下哲(分子科学研究所)


θ型およびα型ET塩の電荷秩序化に対する電子格子相関効果について厳密対角化法を用いて調べた結果を報告する。 ここでは、拡張ハバード模型に遷移積分変調型の電子格子相互作用を取り入れ、主に分子回転に起因した電子格子相互作用によって水平型電荷秩序状態が安定化 されることを述べる。また、強相関極限からアプローチすることによって、θ型ET塩とα型ET塩における電子格子相関効果の違いを明らかにする。

18:15-18:45

「有機電荷移動錯体の電荷秩序による強誘電分極発生」  
山本 薫(分子研)


2:1塩(1/4充填物質)を中心とする多くの有機電荷移動錯体でウィグナー結晶型の電荷秩序が発見されている。 これらの中から我々は,alpha-(BEDT-TTF)2I3が,電荷秩序転移に伴って強誘電的に自発分極することをSHG測定により確認した。構造物 性として認識されてきた強誘電性が,純電子的な現象としてよく説明できる電荷秩序ともなって発現するとすれば新機構による強誘電性として大変興味深い。特 に,電子分極による巨視物性という性質から,短パルスレーザーによる高速ダイナミクスの研究対象として重要だと考えている。この自発分極相に存在が予想さ れる分極ドメインを観測するために走査型の非線形光学顕微鏡を作製し,最近ドメインの可視化に成功した。講演ではその結果を紹介し,さらに,新しい分極物 質の探索についても報告したい。

19:00-
懇親会

 

12月19日(水)(2日目)

8:30- 9:00

「超高速テラヘルツ応答で覗く光誘起絶縁体-金属転移」 
中屋秀貴(東北大理D1)


光誘起絶縁体-金属転移の研究において、光誘起”金属”状態の電子的性質を明らかにする上では、遠赤外領域におけ る過渡スペクトルを測定することが重要である。二次元有機伝導体(α-(BEDT-TTF)2I3)における光誘起金属状態を、<100cm-1の 低エネルギー領域における定常および過渡スペクトルから議論する。

9:00-9:30

「二次元有機導体の格子歪みを伴う電荷秩序と光誘起融解」  
田中康寛 (分子研)


まず、擬二次元有機導体で見られる格子歪みを伴う電荷秩序について、平均場近似を用いて調べた結果を紹介する。具体的には、有機導体 θ-(ET)_2RbZn(SCN)_4とα-(ET)_2I_3について、実験で観測される格子歪みが電荷秩序を安定化させることや、有限温度での相転 移について議論して両物質の比較を行う。また、α-(ET)_2I_3の電荷秩序に対する光照射の効果について、時間依存ハートリー・フォック近似を用い て調べた結果についても報告する。

9:30-9:50

「ダイマーモット系絶縁体κ-(BEDT-TTF)_2Xにおける光誘起相転移」 
川上洋平(東北大理M1)


ダイマーモット絶縁体κ-BEDT-TTF塩における、光誘起絶縁体-金属転移を、中赤外領域の電子、振動スペク トルの過渡的変化から議論する。特に、電荷秩序系(α-、θ-)のBEDT-TTF塩や、これまでに報告されている一次元モット絶縁体における光誘起絶縁 体金属転移との機構の違いに注目する。

9:50-10:05

休 憩

<<遷移金属酸化物+強相関>>

10:05-11:05

「強相関酸化物における光誘起ダイナミクス -電子相関と多自由度-」 
石原純夫(東北大理)


電子間に強い相互作用の働く遷移金属酸化物における光誘起相転移現象、光誘起ダイナミクスについて、研究の現状を 概観する。特に電子相関効果とスピンや軌道などの多自由度の存在が光誘起現象に及ぼす影響を考える。またマンガン酸化物における最近の我々の計算結果につ いて簡単に紹介する。

11:05-11:50

「モット絶縁体の光誘起絶縁体―金属転移と超高速緩和」  
岡本 博(東大新領域)


モット絶縁体の光誘起絶縁体―金属転移と超高速緩和について、二次元銅酸化物薄膜における最近のフェムト秒過渡吸収分光の結果を中心に紹介する。一次元系との比較や今後の課題についても議論したい。

11:50-12:50

昼 食

12:50-13:20

「ペロフスカイト型マンガン酸化物における光誘起電荷・軌道整列相融解の超高速ダイナミクス」  
松崎弘幸 (東大新領域)


これまでのペロフスカイト型マンガン酸化物における光誘起相転移の研究では、主に汎用の時間分解能200フェムト 秒クラスのポンププローブ分光測定が用いられてきたが、時間分解能の不足から転移の初期過程の詳細は十分に明らかにされてこなかった。今回、典型的な電 荷・軌道整列相物質であるペロフスカイト型マンガン酸化物(Nd0.5Ca0.5MnO3)を対象として、時間分解能~30フェムト秒のポンププローブ分 光測定を行い、光誘起相融解の初期ダイナミクスを調べた。講演では、結果を基に、この系の相融解過程における電荷および格子ダイナミクスについて考察す る。

13:20-14:20

「強相関系のスピン緩和及び電子相関で増強されるフォノン効果」 
松枝宏明(仙台電波高専)


強相関電子系における光誘起相の生成過程では、強相関系特有の素励起が相変化の時間・空間スケールを決めていると 考えられる。従って非平衡緩和過程における素励起の量子ダイナミクスを理解することが不可欠である。その目的のためにペロブスカイト型マンガン酸化物の光 誘起現象に着目し、スピンダイナミクスの特徴を議論する。また電子相関・スピン電荷自由度と格子緩和がどのような関係にあるのか一次元モット絶縁体を念頭 に置いて考察する。

14:20-14:35

休 憩

14:35-15:20

「ペロブスカイト型マンガン酸化物における超高速スピンダイナミクス」 
松原正和(産総研CERC)


ペロブスカイト型Mn酸化物においては、種々の外部摂動により超巨大磁気抵抗(CMR)効果に代表される劇的な絶 縁体-金属転移を引き起こすことができるため、光による相制御という観点からも現在まで多くの研究が行われてきた。しかしながら、光励起された状態におい て実際どのような相が実現されているのか明確な知見が得られていない。本講演では、電荷・軌道整列反強磁性絶縁体相と強磁性金属相の臨界領域に位置するペ ロブスイカイト型Mn酸化物を対象に、フェムト秒時間分解磁気光学Kerr効果を用いることにより、この系における超高速光学応答の起源、特に光誘起スピ ンダイナミクスについて考察する。

15:20-16:20

「モット絶縁体の光強励起状態とそのダイナミックス」 
高橋 聡(奈良先端大)


1次元モット絶縁体を光強励起した場合に金属的状態が生成されることが実験的に知られている。この金属状態の起源 を解明するために、1/2フィルド1次元PPPモデルにおいてパンプ・プローブ信号などを計算して、光強励起状態の性質を調べた。その結果、より弱い励起 の場合は、スピンと電荷の自由度が分離した少数のエネルギー固有 状態が光励起状態の量子重みをほぼ独占しているが、極めて強く励起した状態におい てはスピン・電荷結合が顕著であり、これが金属的状態の起源であることがわかった。また、このスピン・電荷結合の結果、強励起状態においては弱励起の場合 には見られないスピン緩和は発生することがわかった。2次元系における同手法による研究結果についても発表する予定である。

 

お問合せ先

お問合せ先:米満賢治(理論・計算分子科学研究領域)